屋久島

 10月の3連休(土・日・月)を利用して屋久島で豪遊してきた。
私は楽しみで楽しみで何日も前からいろいろなことを調べてスケジュール表を作ったり
作り直したり代案を作ったりしていた。
屋久島は雨がよく降るというが、私にとってはタイミングのいい降り方をしてくれた。

 実際には私の屋久島への旅は金曜日の晩からスタートした。
金曜日、真面目に仕事をした後、猛ダッシュで新幹線に飛び乗り、福岡へ向かった。
金曜日の晩は福岡止まり。

 土曜日の朝、4:20に福岡を出発し車で鹿児島へ向かった。
途中で雨が降ってきて、鹿児島に着く頃には本降りになっていた。
鹿児島本港9:50発のトッピーで屋久島へ。
トッピーとは水中翼船とやらで、水面から少し浮いて移動する船らしい。
確かに停止しているときと航海中とを比べると、明らかに停止中のときの方が水面が近かった。
10分遅れで出発したトッピーは(私はほとんどずっと夢の中にいたので知らないが、)種子島を経由して、
時速平均80kmで移動して7分遅れで12:32に屋久島の安房港に到着した。
屋久島に到着する頃には、雲行きは怪しかったものの、雨は一応やんでいた。
そこから予約していたレンタカーを借りる手続きをしに行ったのだが、
屋久島は初めてであり、道も細い可能性が高いということを考慮して
事前に一番小さいSクラスのレンタカーを予約していたにも関わらず、
Sクラスの車が全て出払っている、という理由でトヨタのカローラを押し付けられた。
私は小さい車の方がよかったのに。
傷を付けたら損害賠償金20,000円、と言われた。
しかし、Sクラスの車を予約していたにも関わらず先方の都合で大きな車に乗らざるを得なくなり、
大きな車であるが故に小さい車であれば付かなかったであろう傷を付けてしまった場合、
その損害賠償金というものはやはり払わなければならないのだろうか?
それとも、申込みをした旅行代理店かどこかにクレームを申し立てれば何とかなるものなのだろうか?
結局傷を付けることなく旅を終えたのだが、大きい車であったために狭い道で対向車とすれ違う際に
何度かひやひやした。
しかも、その車はエンジンブレーキが恐ろしいほど利かず、下りの坂道でセカンドに落としても
ブレーキを踏みっ放しにしない限り減速しなかった。
ローに落とすとさすがに減速はしたが、恐ろしい音がして今にも車が壊れそうだった。
非常に迷惑な車だった。

その迷惑な車に乗って、まずはそのまま白谷雲水峡へ向かった。
白谷雲水峡の奥がもののけ姫の舞台の一部として使われたと聞いていたので何としても見逃したくなかったのだ。
白谷雲水峡の入り口で協力金という名目で集金され、1枚のパンフレットのような地図を渡された。
その地図上に「もののけ姫の森」と書いてあったので、そこまで行くことにした。
白谷雲水峡にはコースとして、30分・60分・150分コースがあるのだが、
もののけ姫の森は150分の更に先にあり、コースからは外れていた。
地図を渡してくれたおばさんは通行止めになっている箇所を地図に書き込んでくれた上で道順を案内してくれた。
往復とも同じルートを通る道順だった。
かくして、片道約90分、往復180分程度のルートを歩くことになったのだった。
もののけ姫の森はそういう表示があるわけではなく、我々も他の観光客が数組その周辺に溜まっていなければ
気付かずに通り過ぎてしまっていたかもしれない。
だが、それは確かにもののけ姫に出てきたような風景だった。
ものすごくグリーンで、とても綺麗で、少し幻想的で、静かな雰囲気で、湿度が高かった。
観光客がいなければ、非常に静かな場所なのであろうことが容易に想像でき、
静寂が似つかわしかい場所だった。
途中、険しい道がたくさんあったわけでもなく、ほぼ予定通り180分で戻った。

戻った頃には17:00前になっていたが、私の強い希望で車を飛ばして志戸子のガジュマル園へ行った。
だが、残念なことにガジュマル園に着いたのは17:30を過ぎており、既に閉園していたようだった。
営業時間を調べておかなかった私の失態だった。
自分が非常に情けなかった。
移動中に屋久猿と屋久鹿を何匹か見た。
その度に車を停めて車から降りると、鹿は逃げていき、猿は逃げるわけではないものの
常に一定の距離を保った位置に移動していった。
猿は他で見る猿と同じくらいかほんの少し小さいような気がしただけだったが、
鹿は通常目にするものよりも一回り小さいようだった。

仕方がないのでその日の行動はそこで終了し、ホテルへ向かうこととなった。
我々が宿泊したホテルは超高級ホテルで、
私のような貧乏人にとっては生きているうちにこのような豪勢なホテルに泊まることがあるなんて、、、
と、びっくり仰天するようなホテルだった。
朝及び夕食つきだったのだが、
1日目の夕食は和食かタイ料理のどちらかを選択でき、
2日目の夕食は洋食かタイ料理のどちらかを選択できるとのことだった。
まずは1日目、私としては食べたことのないタイ料理に心が動いたが、
同行者の強い希望によって和食に決定した。
和食はコースのようになっており、1品片付けると次のお料理が出てくる。
前菜として出てきた品の中に同行者のお皿に入っていたサザエが私のお皿には入っておらず、
明らかに私の分だけ忘れ去られていたことが極めて不服だった。
食べ物の恨みは恐ろしいのである。
とはいえ、黒豚の角煮やトビウオの唐揚げなど滅多にお目にかかることのできないものが出てきた。
トビウオなど見たこともない私はそのヒレの立派さに驚かされ、
面倒くさがりな私は背骨ごとばりばり食べて大満足した。
その日は結局屋久島に着いてから一度も雨は降らなかった。

 日曜日、朝4:15にホテルを出て今回最大の目的である縄文杉を目指した。
ホテルの朝食には当然ながら早すぎたのだが、朝・夕食つきということだったので
ホテルが朝ご飯としてお弁当を用意してくれた。
荒川登山口までの道は暗く狭く目印になるものもなく、
自分達が本当に正しい道を走っているのかどうかが確認できる標識が出てくるまでに随分時間を要した。
ほとんど車には出会わなかったのだが、途中から少し後ろをついてくる車があった。
もしも後ろの車の方がずっと速いようであればどこかで道を譲った方がいいか、と私は何度かミラーを見たが
ミラーに映る車のライトはかなり離れており敢えて道を譲ることはしなかった。
だが、ある分かれ道に差しかかり、我々がどちらへ行くべきか考えるためにほんの2秒程度スピードを落としたとき、
近づいてきた後ろの車は狂ったようににクラクションを鳴らした。
我々はただスピードを落としただけだったのですぐにスピードを上げて曲がると
後ろの車は猛スピードで別の道を突っ走って行った。
タクシーのようだった。
後ろの車よ、明け方の5時前にほんの数秒も待てないほど一体何を急いでいたのだ?
その非常識な車と分かれてから更に細い道を進み続け、
縄文杉へ向かう登山口(荒川登山口)に到着したのは5:00過ぎだった。
まだ真っ暗だったにも関わらず駐車スペースとして公に確保されている場所はほとんど埋まっていた。
路上の駐車スペースの端っこ辺りに何とか車を停め、車の中で朝ご飯のお弁当を食べた。
高級ホテルにあるまじきお粗末なお弁当だった。
お弁当を食べている間に車が後から後からぞくぞくとやってきた。
ほんの5分遅かったらとんでもなく遠いところまで行かなければ車を停める場所がなかったかもしれない。
危ないところだった。
お弁当を食べ終わったがすることもないので、真っ暗で何も見えない中5:30頃縄文杉を目指して出発した。
非常用に一応持ってきた100円の小さな懐中電灯で地面を照らしながら歩きにくいトロッコ道をひたすら歩いた。
1時間2時間と歩くうちに空はだんだん明るくなり懐中電灯も不要になった。
まだ早い時間帯で人もいないトロッコ道を歩くうちに、少し前を歩いていたおじさんが突然後ろを振り返って
我々に向かって静かにするよう、人差し指を口に当てて合図した。
何事かと思い一瞬立ち止まったが、おじさんはすぐに、こっそりおいで、という風に
背中の後ろで手を振って我々に近づいてくるよう促したのでこっそりひっそり近づいていくと、
おじさんの前を角を生やした鹿が歩いていた。
ほわ〜ぁっと呆けて眺めているうちに鹿は山の中に消えて行った。
雄の屋久鹿を見たのはそれが最初だった。
そして、雄鹿もやはり小さいようだった。
暗い間も明るくなってからもいくつか人一人通れるくらいの手摺のない橋があり、
風の強い日や雨の日などは絶対に渡りたくないと思った。
橋のはるか下に見えるのは激流の川であり、巨大な岩の集まりや倒木であり、
時には思わず目を奪われるような澄み切ったエメラルドグリーンの川で、底にある小さな石ころまではっきり見えた。
やがてトロッコ道が終わり、険しい登山道が始まった。
岩がごろごろで険しいという箇所も何箇所かあったが、それ以上に階段が辛かった。
人為的に階段を作ってくれているのだが、自分の歩幅に合わなかったり幅や高さが不揃いなのが
単調で果てしなく続く拷問のように辛かった。
木でできた階段だったのだが、朝の早い時間帯は夜露か何かで階段が濡れており非常に滑りやすかった。
更に、山の中に入るにつれて階段を支えている柱が腐っていて
歩く度にゆさゆさ揺れる箇所もあって、今にも階段が崩れそうだった。
縄文杉までの道程に、小杉谷跡という昔の小中学校の跡地や翁杉・ウィルソン株・大王杉・夫婦杉などの
ガイドブックに載っているような、いわゆる見所に出会う度に少し立ち止まって近くをうろうろしてみた。
ウィルソン株などは、その巨大な株の中に入れるようになっていたので中に入った。
中は薄暗くまるで天井のない大きなテントのようだった。
そうこうするうちに縄文杉に着いた。
到着時刻は9:30頃。
我々の他にも何組か同じような時間に出発した人達がいたはずなのだが、途中で追い抜いてしまったのか
彼らは縄文杉を通り越して更に先まで行ってしまったのか知らないが、我々の登山ルートで縄文杉に辿り着いたと思われる中では
鹿のおじさんの次くらいだった。
縄文杉へは荒川登山口からではない道もあるようで、そちらから来たと思われる登山組が2組ほどいた。
縄文杉をじろじろ眺めた後、その近くに敷物を敷き、非常用に持ってきたカロリーメイトやお菓子をほお張った。
かれこれ1時間弱ほど時を過ごしているとだんだん人が増えてきて騒がしくなってきた。
うるさいし、そろそろ降りようかと腰を上げてふと登ってきた道を見下ろすと、
人の群れが蟻の行列のように列を成して狭い道を登ってきているのが随分下の方まで見えた。
ぞっとしながら慌てて下山を始めたが、すれ違う際に、登ってくる人はあまり除けてくれない。
どうしても下山する方が元気なのでこちらが気を遣って脇にどいて登山者が通り過ぎるのを待たねばならない。
そうすると、ツアーか何かで来ていると思しき団体などは何十人も通り過ぎるのを待たなければならない。
しかも、登ってくる人は疲れている人が多いのでゆっくり上ってくる。
我々は人の列が途切れる度に走るように下山した。
滑りやすい木の階段も一段飛ばしで走り下り、登ってくるときに『ここ下りるとき滑りそうで怖いね』と話していたはずの
険しい岩場を飛び降り、少し平坦な場所があれば小走りに。
木の枝に捕まって険しい岩場を飛び降りたり木の幹を支えにして階段から階段を移動したり、
何だか少し自分が猿か野生児になった気分がしてとても楽しかった。
楽しくて楽しくて手摺のない橋をばたばた走って渡った。
怖さなどどこにもなかった。ただ楽しかった。
途中で、登り始めるには遅すぎ、下山するには早い時間帯になったので
私は楽しくて人のいないトロッコ道を歌を歌いながら下った。
下山途中で湧水が出る場所でお水を汲み、最後に小杉谷学校跡の前で休憩をしておやつを食べ、下山し終えた。
下山し終えたのは大体14:00前頃。
初心者なので10時間程度はかかるだろうと覚悟していた割には、しっかり休憩もしつつ意外と早い下山だった。

予定より随分早く下山できたので、荒川登山口までに見かけた屋久杉自然館とやらを見に行った。
下山して車に乗ってしばらくすると少し雨が降り始めた。
自然館に着いてもまだ雨は降っていたが、とりあえず車を停めて様子を見に行った。
玄関の外から中の様子を少し伺ってみたが、さほど面白いこともなさそうだと判断して中に入るのはやめた。
もしかすると、我々は少し疲れていたのかもしれない。
入館料と内容の合理性がどうだこうだと言い訳をしながらその場を去った。

その日の晩ご飯は私の希望に則ってタイ料理を選択した。
興味津々で臨んだ晩ご飯だった。
生まれて初めて口にするお料理がいくつもあり、中でもトムヤムクンスープに感激した。
おいしい。
タイ料理はクセがあるようで、苦手な人には苦手だろうが我々にはとてもおいしく感じられた。
大体において辛かったが、他の品も限りなくおいしかった。
グリーンカレーなど、私は初めて聞くメニューもあって辛くてとてもおいしかった。
トムヤムクンスープを作ってみたいと思い、旅から帰ってからレシピを探してみると
聞いたことも見たこともないたくさんのスパイスの名前が書いてあって、
当分の間、断念しようと思った…。

 月曜日の朝はゆっくり起きて7:00過ぎに朝食を取りにレストランへ行くと、バイキングだった。
たくさんの食べ物が並んでおり、嬉しくて嬉しくて朝から大量にお腹に詰め込んだ。
あれも食べたいこれも食べたい、次はあれを取りに行こう、次はあれだ、と、
食べながら次のお皿のことを考えながらがっついた結果、食べ過ぎて少しお腹が痛くなった。

予定では8:00頃出発して島を一周しつつ興味を惹く場所があれば停まるつもりだった。
予定は未定で結局9:00出発となったが、とりあえず予定を決行することにした。
ホテルを出たとき、その場は快晴だったが山の上の方は恐ろしく曇っていた。
おそらく山は雨だろうな、と思いながら島を回るうちに雨が降ってきた。
そのとき島の反対側の辺りの空を見ると晴れていた。
こんな小さな島なのに東側と西側ではお天気が全く違うのだな、と感心しながらドライブを続けた。
途中、大川の滝というところに寄り、巨大な滝のすぐ下まで歩いて行った。
滝の下の川の部分はやはりものすごく澄んでおり、川の底までしっかり見えた。
日本にもこのような場所があったとは。
いやはや、素晴らしい。
そうこうするうちに、島を出なければならない時間が迫ってきて、
私がお土産を買う必要があったため、お土産屋さんを探していくつかお土産を買った。
さすが屋久島だけあって、屋久杉で作られた物がたくさん売っており、それらに見惚れてしまった。

少し時間に迫られながらレンタカーを返し、安房港の近くのお店で船の中で食べるためのお弁当を買った。
帰りは13:10発のトッピーに乗った。
行きと同じく種子島経由で鹿児島港へ向かった。
そして、行きと同じくすっかり寝入ってしまった私は種子島に着いたことに気づかなかった。
種子島を出航する頃になってやっと目覚め、種子島の端を少し見ることができた。
予定通り16:00に鹿児島港に着き、そこから車で小倉まですっ飛ばし、
私は小倉から終電の1つ前の新幹線に乗って帰途についた。

 我々は運がよかったのだろうか、全体的に悪天候だった中、
最も心配していた山の中では一度も雨は降らなかった。
木の根は滑りやすく、岩場も滑りやすく、山道を歩いているときに雨が降っていたら
私は間違いなく転んでいただろうと思う。
ガジュマル園と代案で予定に組んでいたヤクスギランドに行けなかったことが少し心残りだが、
あれ以上の過密スケジュールを組まなくてよかったと思う。
適度にのんびりと適度に忙しく、さほど疲れない程度が一番だ。

 さすが自然の豊かな島、というべきか、島のあちこちに「ヤスデ発生地区」という立て看板が見え、
本物のヤスデを見たことはないものの背筋がぞぞっとする思いをしたり、
ホテルの部屋の中に比較的大きな蜘蛛や恐ろしく超級に巨大な蜘蛛が出現して発狂しそうになったりはしたが、
総じて、なかなか楽しい旅だった。






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