個人情報保護法の弊害

 婚姻という行為により、女である私の側が当然のように改姓の必要性が出てきた。
夫婦別姓という選択肢は最初から考えていなかったので、改姓すること自体に特に不満はない。
やむを得ないことだと、諦めて数々の面倒な手続きを片付けるつもりでいた。

 クレジットカードや公共料金の名義変更は、郵便やネットで可能だったため、
面倒である以外特に問題はなかった。
最後まで残ったのが、銀行と郵便局の名義変更及び免許証の書き換え。
順番的に、本人確認書類として最も重要視される運転免許証を書き換えてから銀行や郵便局の名義変更をするのが得策に思えた。
免許証は、折も折ちょうど更新の時期に当たっていたため、更新手続きと同時に改姓・住所変更等を行った。
そこまでは何一つ滞りなく進んだ。
銀行の名義変更が曲者だった。
私は複数の銀行に口座を持っているので、一つ一つ窓口へ行って片付ける必要があった。
三井住友銀行は本人確認に新しく作られた運転免許証で何一つ引っかかることなく、
銀行の人の対応も非常によく、スムーズに名義変更を終えた。
その調子で、三菱東京UFJへ。
銀行に入って総合的な案内をしてくれる人に名義変更する旨伝えると、新旧両方の姓が載っている書類が必要だと言われた。
その案内をしてくれる人の対応も、別に忙しそうでもないのに何だかやたらと不機嫌そうで
『こちらではわかりかねます』『こちらでは判断いたしかねます』を連発するくせになかなか相談窓口へ案内してくれない。
散々話をしてようやく相談窓口への招待状(番号札)を渡してもらえた。
窓口でまた同じことを言われたので、免許証は更新したので新旧の姓が載っている書類などないと言った。
それでは処理ができないと言う。
公共料金の領収証ならば旧姓で届いているので、それでいいかと尋ねると、それではだめだと言う。
そして、旧姓の載っている運転免許証がないのであれば戸籍謄本をとってくるように言われた。
戸籍謄本…。
銀行の口座の名義変更をするためだけに戸籍謄本…。
その日はわざわざ会社を休んでおり、他にもしなければならないことがあり、
免許の更新で既に随分時間を取られていたこともあって、午後も相当過ぎていた。
よりによって、三菱東京UFJの口座をお給料の振込口座に指定していた。
会社からはお給料日までに銀行の口座の名義を変更しなければお給料が振り込めないと言われており
その日はそう遠くはなかった。
私はそれらの事柄を銀行員に切々と訴えてみたがだめだった。
そこでふと思い出した。
免許の更新のために住民票を取得しており、その住民票には新旧両方の姓が記載されており、
更に用心深い私は何かに使うことになるかもしれないと思ってコピーをとっておいたのだった。
これで何もかも綺麗に片付くと思って意気揚々と住民票のコピーでどうだと提案すると、あっさり却下された。
『うちでは何の書類であれ、コピーは一切受け付けておりませんが』とのこと。
それは、もう一度市役所へ行って手数料を払って住民票を取ってこいということか。
嫌気がさして不機嫌に黙り込むと、一度解約してから新規で口座を作ってはどうかと提案された。
それならば、旧姓と新姓とそれぞれ別の本人確認書類で済むとのこと。
面倒くさくなって『じゃぁそうします』と言うと
『あーでも、お給料の振り込み口座に指定してるんだったら解約しちゃったらますますだめですよねぇ』と言われた。
おのれ、どちらにしろ今のままではお給料振り込まれないから同じことではないか。
腹が立ちすぎてまた黙り込むと、配偶者がパスポートでどうかと提案した。
パスポートならば国が発行しているものであり、新姓はないものの旧姓と顔写真が載っている。
すると、銀行員は渋々といった風にパスポートでも受け付けると言ってくれた。
急いで帰り、パスポートを持って銀行へ戻ると、先ほど話をしていた人は接客中とのことで、別の人が出てきた。
そして、事情を話してパスポートを差し出すと『パスポートでは新旧両姓が書かれていないので取り扱いできません』
またか。
勘弁してくれよ、と思いながら同じ話を繰り返し説明していると、接客が終わったのか
先ほど話をしていた人がブースに顔を出した。
彼女達は私の目の前でパスポートで受け付けるか否かのバトルを始めた。
どうやら、最初にパスポートでOKを出した人の方が若干上だったらしく、最終的にはパスポートで受け付けてもらえた。
だが、手続きをする際に非常に嫌そうな顔をされ、私はこの上なく不愉快な思いをさせられ、
自分は何故わざわざこのような銀行をお給料の振込口座に指定したのかと後悔の念でいっぱいだった。

 たまたま私が行った支店での対応が悪いだけかと思っていたが、
その後、いろいろな人と話をしていくと、ほとんどの人が大仰に同意してくれて驚いた。
どうやら皆結構あちこちで嫌な思いをさせられているらしい。
「融通がきかない」「オヤクショ仕事」「高飛車」「上から物を言う」etc.
私は比較的最近三菱東京UFJで口座を開設したので、それほど評判が悪いとは全然知らず
少なからずショックを受けた。

 銀行の窓口業務を担当している人が悪いわけではない。
会社のやり方に従っているだけなのだから。
対応の悪さについても、あちらこちらから板ばさみになって嫌になっているからに違いないと思う。
何かある度に「個人情報保護法の関係で」という、会社の上層部の人間にとっては都合のいい言葉でまとめられ、
お客の立場の人間のみならず働いている側の人間までもが迷惑を被っているように思う。
個人情報保護法など仰々しい法律が必要になるような世の中には、どうも共感できない。






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