害虫との闘い

 数週間ほど、半端ではないくらい虫に刺されている。
初めは、わき腹、お腹、背中、膝の裏、太ももの内側等に2ヶ所ずつ。
絶対にダニだと思っていた。
ダニは柔らかい非露出部に2ヶ所ずつ刺すと聞いたことがあったからだ。
朝起きると毎日どこか新たに猛烈に痒い場所が増えている。
私の部屋は決してさほど不潔ではないと思うのだが、
とにかく毎日帰って掃除機をかけて布団乾燥機を3時間。
それなのに、虫刺されは一向に減少することはなく、そのうちに腕や手首や手の甲に首の後ろ、足まで侵害してきた。
刺し痕は1ヶ所のところもあれば2ヶ所のところもある。
ただ、どれもこれも猛烈に痒い。
何週間も何週間も掻いても掻いても痒みが続く。
しかも、朝起きたときだけでなく、会社でも出先でも気づけばぷくっと真新しい虫刺されが増えている。
一体何に刺されているのか見当もつかず、体内で虫でも飼っているのかと思ってぞっとした。
あまりの痒みに耐えきれず、11月も終わりだというのに、液体ムヒを購入した。
だが、吸血虫の正体はまったくわからないままだった。

 ある日の朝、起きて新たな刺し痕をいくつか確認してからお布団をぱたんぱたんとたたんでいると、
掛け布団の端にレーズンより少し大きいくらいの黒っぽいゴミを見つけた。
私は四季を通して朝は電気を付けない。
朝から人工的な光を浴びるのがひどく嫌だからだ。
今の時期などは日の出が遅いので、台所仕事以外は全て暗闇の中で行われる。
その日もお布団をたたむ作業は暗闇の中で行われ、物体が何なのかよく見えなかったため、
目を凝らしてじっと見つめると、ゴミが移動した。
咄嗟に「ゴ」の赤ちゃんだと思った私は怯んで掛け布団から手を離してしまったが、
同時に飛び上がって護身のために不本意ながら常備している「ゴ」ジェットを掴み
部屋の電気を付けつつ、動く物体に向かって噴射した。
助けてくれる者は誰もない、やるかやられるかの非情で孤独な生活を送っているのだ。
しばらくして、物体は動かなくなった。

 私は「ゴ」などの死骸をティッシュ越しにでも触ることができないので、掃除機を使う。
物体を見ないようにして掃除機で吸い取って、ゴミパックごと捨てる。
それが精一杯だ。
その日も震える手で掃除機を取り出して吸おうとした瞬間、物体を見てしまった。
見て、おや?と思った。
絶対に「ゴ」の赤ちゃんではないからだ。
私は普通は害虫を鑑賞するなどという趣味はない。
だが、変な虫がいてはそれはそれで困ることになるので正体だけでも抑えておこうと、吐き気を堪えてじっと観察した。
見たことのない虫だった。
赤くて明らかに血を吸って体中が膨れ上がっており、背中に甲羅のような線が入っている。
後で調べてみようと、形状を覚えるために少し眺めたがもう限界だったのでやめた。

 何の虫か調べた。
どこをどう調べても全然その形状の虫が見当たらなかったが、何百枚も気持ちの悪い写真を見て
ようやくそれらしき形状の虫を見つけた。
トコジラミ別名南京虫というのがその虫の名前らしい。
そういえば、南京虫というのは日本史で習ったような気がしなくもないが形状までは知らなかった。
いろいろと調べたところ、私の症状と一致していたので、私の血を吸ったのは南京虫なのであろう。
気に食わないのが、南京虫というのは戦後すぐの日本や、不衛生なところに生息するものであるらしいということだ。
近年は、ニューヨークやオーストラリアなどの都会で大量発生したという例もあるそうで、
昔と比較して殺虫効果の弱い殺虫剤ばかりになったというのも南京虫復活の理由として挙げられていた。
だが。それはともかくとして。
私の住処はそれほどまでに不潔か。
私の部屋は日本中で最も不衛生なのか。
そんなことは決してないだろうと自信をもって言える。
なのに、何故、私の住処に発生する。
不愉快極まりない。
更に不愉快なことに、調べれば調べるほど、南京虫の駆除は困難だという情報に行き当たる。
ダニより難しく、バルサンを焚いても効果なし、らしい。
お先真っ暗、といったところだ。
もちろん数週間放置していたのだから、私が退治した1匹で終わりということはないだろう。
その証拠に次の日の朝もしっかり何者かに手の親指の付け根辺りを刺されていた。

 はっきりいって泣きたい気分なのだが、やるかやられるかの非情な世界で泣いていてはやられるだけだ。
何か対策をとる必要があると判断して、とりあえずバルサンを焚いてみることにした。
バルサンというものは、季節商品なのだろうか。
何軒お店を回ってもどこにも売っていなかった。
だからといって、おとなしく引き下がるわけにはいかない。
血だけなら、虫が吸うくらい構わない。
虫にくらい、死なない程度にならいくらでも分けてあげる。
それでなくとも血の気が多いのだから。
だが、痒いのは本当に勘弁してもらいたい。
何といっても、狂おしいほど猛烈に痒い上に、何週間もその痒みが続くのだ。
とてもじゃないが、我慢できるようなものではない。
そこで、防虫剤を大量に買い込んでみた。
ナフタリンの匂いのしない、無臭を謳い文句にしているタイプの細かいものをたくさん買った。
部屋中いたるところに防虫剤を置き、敷き布団の下と敷き布団の上と枕の下にばら撒いた。
ついでに、パジャマのポケットにも入れて寝てみた。
まったくの無臭ではないので無臭という謳い文句は如何なものかと思うが、まぁいい。
次の日の朝起きたとき、多分新たな刺し痕はなかった。
多分、というのは、既に刺された痕が多すぎて、またその全てがあまりにもいつまでも痒くて、
どこがいつの分だかわからなくなっているからだ。
後数週間すれば新たに刺されているか否かが判明するだろう。
何はともあれ、防虫剤の効き目が消える前に次なる手立てを考えておかなければなるまい。






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