今年は鶯の鳴き声をよく耳にする。
街中で鶯の鳴き声などあまり聞くチャンスがなかったので、最初は誰かが飼っているのか
若しくはおもちゃで遊んでいるのかと思った。
というのは、私自身が幼い頃伯母にうぐいすの形をした笛を買ってもらって遊んだ記憶があるからだ。
その笛は単純ながらも精巧な作りで背中の穴に水を適量入れて尻尾に息を吹き込むと
うまい具合に「ホ〜ホケキョッ」という音を出した。
あまりにも家の中でずっと吹き続けたので母に叱られて裏庭に追い出されたが、楽しかった。
その類のおもちゃで子供が遊んでいるのかと思ったのだ。
しかし、朝の5時半に子供が笛を吹いて遊んでいるとも思えず、通勤途中も何度か聞こえたので、
恐らく本物の鶯が今年は間違って街中に迷い込んだのだろうと思うのが妥当だという結論に達した。

 鶯の声を聞くと、私は大学の合宿を思い出す。
大学のクラブの合宿が辛かった。
年に何度かある合宿の中のうちの一つに冬合宿というものがあった。
年が明けて間もなく冬合宿が始まり、そのまま後期試験の直前まで続く。
大学から歩いて20〜30分かかるお寺で寝泊りし、そこで試験勉強もした。
明け方になると、皆胴着袴に着替えて日の出とはほど遠い暗闇の中を数十人で列を為して大学まで無言で歩いた。
何故無言で歩くかというと、喋るとそれだけ体力を消耗するからだ。
一日を生き抜くには非常な体力と気力が必要であり、ほんの少しでも体力を温存する必要があったのだ。
真っ暗な道を濃紺の胴着袴姿の数十人の大学生が無言でぞろぞろ歩く様子はさぞ異様だっただろうと思う。
そんな冬の明け方の通学途上では時として雪がちらつくこともあった。
私達は暗澹たる気持ちで大学まで歩き、到着するとまずは外で素振りをした。
素振りをしていると空が白み始め、遠くの方から「ほ〜ほけきょ」と聞こえてくることがあった。
それは羨ましくなるくらい呑気な鳴き方で、我々の置かれていた状況にはそぐわなかった。
私達は素振りの掛け声の合間に鶯の鳴き声を聞きながら素振りをした。
地獄のような一日の始まりだった。

 鶯の鳴き声は私の耳にはあまり心地よく響かない。
特に、朝聞くと嫌な思い出が蘇ってくる。
街中で鶯の鳴き声を聞くことができるなんてラッキーなことだと思っている人もいるだろうに、残念なことだ。






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