パキラくん

 1週間ほど前から会社の机の上にパキラくんを置いている。
小さな小さな新芽をつけた小さな小さなパキラくんだ。

 元々は私が100円ショップで買ってきた小さなパキラくんだったが、
私が育てているうちに枯れてきたので母に押し付けた。
すると、枯れかけていたパキラくんは甦ってすくすくと育ち、いつの間にか1m以上の背丈に伸びた。
さすがに幹は細いものの、巨大な葉っぱをつけた立派なパキラくんになった。
ところが、ある日母が鉢植えを外に出していたところ、突風が吹いてパキラくんが倒れ、
小さな小さな芽が何本か折れてしまったそうだ。
母はそれらを拾い集め、ハイドロカルチャーで根を生やすことに精を出した。
そうこうするうちに何本かは根を出し、何本かは枯れ、何本かは何も変わらず成長が止まっていた。
『元々はあんたが買ってきたんじゃないの』と言って、その中から2本を母に押し付けられた。
1本は細い細い小さな根っこが生えてきたばかりで小さな小さな新芽を持っている茎、
もう1本は根っこが全く生えず、かといって枯れもせず、成長が完全に止まっている茎。

 私はパキラくんが大好きだ。
だが、私は植物を育てることに向いていない。
だからといって、せっかく根が出てきたものをみすみす枯らすのは嫌だ。
しかし、私の部屋に置いておけば間違いなく寒すぎて1週間以内に枯れるだろう。
というわけで、暖かい事務所に置くことにした。
地球環境に配慮している私の勤務先は冬のヒーターの温度も低く設定している。はずだ。
しかし、人と端末とプリンターの数が多すぎて事務所はいつも暑い。
その暑い事務所が、観葉植物にはきっと適当な環境に違いないと思った。
小さなパキラくん達はぐにゅぐにゅする物体を詰め込んだ小さなジャムの空き瓶にまとめられ、
人工の光と人工の熱の中、ハイドロカルチャーで育てられることになった。

 事務所の机のPCの前に瓶を置いてから1週間、毎朝会社に着くとすぐに瓶を持ち上げて眺めた。
初めの数日間は枯れているのではないか、根が腐ったのではないか、と心配で観察していた。
しかし、一向に枯れもせず根腐れも起こさないことがわかってからは違う目で観察するようになった。
早く新芽が伸びればいいのに、早く根っこが出ればいいのに、早く成長すればいいのに。
毎朝出社してすぐに眺め始め始業時間までずっと観察する。
新芽が1mm伸びたような気がする、もしかして根っこのない方の茎がほんのちょっぴり成長した?
お昼休みにまた眺める。朝よりもほんの少し芽が伸びたのではないか。
どれだけ眺めても飽きることがない。
あまりにもじっと眺めるので、先日会社の人に『念力でもかけているの?』と尋ねられてしまった。
飽きないのだから仕方がない。
しかし、あまりにも見つめすぎると恥ずかしくて芽を出さなくなっても困ると思い、できるだけ見ないようにした。
見ないようにしてからもなかなか伸びない。
もしかすると人工の光では成長が止まってしまうのだろうかと懸念していた。

 週末を挟んで楽しみに会社へ行くと、何と、週末の間に小さな小さな新芽が一気に5mmほど伸びていた。
あまりの嬉しさに毎日じっくり眺めてしまう。
朝とお昼とでは芽の先から覗いている葉っぱの向きや広がり方が少しずつ違う。
お昼と夕方ではまた少し違う。
ほんの少しずつだが成長する様子が窺えるというのはとても悦ばしいことだ。
眺めすぎないようにしつつじっくりと観察してパキラくんの成長を見守ろうと思っている。
私が植物を枯らすことなく育てることができるなど、そうあることではない。
事務所は植物に最適な環境だということがわかって私は嬉しい。
そして、私にパキラくんを育てる機会を与えてくれた母に感謝。






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