自転車の災難

 ずっと乗っていた自転車がついに壊れてしまったため、必要に駆られて自転車を新調した。
私が乗っていた自転車はブリジストンの27インチ内装3段変速の自転車。
実によく役に立ってくれた。
私は自転車で通勤している。
派遣は交通費が出ないということから、最初は交通費節約のために自転車通勤を始めた。
通勤時間としては人に話すと少し目を丸くされる程度だが自分ではそれほど苦に思ったことはない。
急な坂、信号数、人ごみ、車の通行量、自転車の通行量、それぞれのマナーの悪さ、どれも最悪だが、
電車を乗り継いで通勤するよりも自転車の方が楽だということに気付いてからはますます進んで自転車で通勤するようになった。
変速付きの自転車だから余計に楽なのかもしれない。
だが、最後の方はみすぼらしい姿になっていた。

 あごに不名誉な縫い痕を作ってしまったとき(過去の体験の「あごに傷」参照)、自転車の後ろのタイヤカバーが割れてしまった。
自転車屋さんを梯子したが、ブリジストンの自転車は特殊なタイヤカバーを使用しているために取り寄せになると言われ、
どの自転車屋さんでも取り寄せるのに数週間かかると言われた。
どの自転車屋さんでも修復不可能と言われ、応急処置もすぐにだめになるからという理由で対処してもらえなかった。
日々自転車を必要としている私としては数週間も待つ気になれず、自分でビニールテープとダブルクリップで固定した。
私の通勤路は道が悪いので何度かクリップが飛んで新しいクリップを取り付けたりもしたが、
結局私の行った素人の応急処置だけで自転車が完全に壊れるまでタイヤカバーとしての役目を果たしてくれた。

 ハンドルのところにギヤをチェンジする何やらがあり、その何やらはゴムのカバーで覆われていたために
長年風雨に吹き晒されているうちにゴムが老化して取れてしまっていた。
そのため、ここ数年間は乗るたびにゴムのあったところにゴムバンドと滑り止めを巻き、降りるたびに取り外していた。
ただ巻いているだけのため、寒い日などもハンドルから手を離すことができず、
ほんの一時的にでもポケットに手を入れることすらままならなかった。

 サドルもいつの間にか破れてしまい、雨が降った後に乗ると破れたところからサドルに染み込んでいた水が
私の重みによりサドルから染み出してきてお尻が濡れた。
そのため、乗っていないときはサドルカバーをかぶせて雨を凌がせていた。

 ライトはある日自転車置き場に自転車を停めている間に誰かに蹴り割られて使い物にならなくなり、
自分でライトを買って取り付けたのはいいのだが、留め方が悪いのか何度締めてもずれて調子がよくなかった。

 そんな自転車だったが、まだ動くうちは、と思って乗っていた。
周りからは幾度となく買い替えたらと言われていたが、何となく愛着があったのと
心を動かされるような自転車が見つからなかったのとで買い替えることをしなかった。
しかし、最近何となく危機感を覚えて新しい自転車を購入した。
ちょっといい雰囲気の外装18段変速の自転車だった。
しかし、新しい自転車で通勤したところ、ギヤをチェンジしてもうまくチェンジされずペダルはずっと空回りで前に進まない。
公道であまりにも恥ずかしい思いをしたので返品した。
返品した直後、私のブリジストンが完全に壊れてしまった。
会社から帰る途中でギヤをチェンジしていると突然バキッっと大きな音が聞こえ、ギヤが一番軽いものから変わらなくなった。
一度止まってギヤに通じるワイヤーを引っ張ってみるとあえなく抜けてきた。
どうやらギヤをチェンジするのに関係のあるワイヤーがちぎれたようだった。
ハムスターのようにちまちまと足を動かして数十分かけて帰り、その後で大きな自転車屋さんへ向かった。
自転車屋さんで事情を話して修理可能かと尋ねると、ブリジストンの自転車は特殊なワイヤーを使っているので
修理することは可能ではあるけれども取り寄せになるので1週間程かかると言われた。
あー、特殊、特殊、特殊、特殊。
以前、荷台を取り付けることを考えて自転車屋さんに相談したが、そのときもブリジストンの自転車は特殊な作りだから
一般的に売っているものには対応していないと、取り寄せなければならないと言われた。
特殊なものばかり、もうたくさんだ。
特殊ほど迷惑なものはない。
特殊なものをいちいち取り寄せていたら部品が全部揃うまでに私はおばあさんになってしまう。
その場で新しい自転車を購入することを決意して27インチ6段変速の何の変哲もない普通のつまらない自転車を買った。
ブリジストンはかわいそうだったが525円で廃棄してもらった。
この際自分の好みなんてどうでもいい、機能的に優れていて不具合なく乗れればいい、と思った。
ただ乗れればそれでいい、と思ったのだが。
次の日は日曜日だった。
午前中に少し自転車に乗った後、自転車置き場に停めておいた。
午後から自転車を見に行くと、タイヤが外れていた。
何てことだ。
ただ乗れればいい、と願っていたのにそれすらも叶わない。
脱力した。
雨が降っていたが、タイヤの外れた自転車をひきずって歩いて自転車屋さんまで行った。
濡れネズミになって30分ほど歩いて自転車屋さんに着き、事情を話して見てもらった。
タイヤを外したところをちらっと見ると、中のチューブがぎざぎざにちぎれいてた。
自転車屋さん曰く、メーカーから出荷されてきた時点で車輪にチューブが巻き込まれていた可能性が高いとのこと。
メーカーから出荷されてきたものをいちいち全部分解してチェックしてから展示するわけではないので、
とか何とか一生懸命言い訳をしていたがそんなことはどうでもよかった。
私はただ普通に乗れる自転車が欲しかった。
大それた望みではないはずなのに、それの何と難しいことか。
結局、タイヤを交換してもらった。
お詫びの意味もあったのだろうか、いいタイヤと交換してくれたらしい。
お店の人が一生懸命アピールしていた。

 まるで何かに取り憑かれたかのような数日間だった。
自転車1台購入するのがこれほど難しいことだとは夢にも思わなかった。
今のところ、何とか不具合なく乗ってはいるが、今度は何が起きるかと冷や冷やしている。
今度変な不具合が出たら、私は当分の間自転車には乗らないし買わないことにする。






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