携帯の悲劇の終焉

 お店で新品の804Nに変えてもらったその日の晩、早くも不具合が生じた。
お店の人の話では、不具合ソフトに関しては対応済みのものとのことだった。
しかし、メールを作成する際に電話帳を呼び出すと電源が落ちる。
但し、それまでの携帯と比較すると規則性がなくなった。
そのため、どういう動作をすると電源が落ちるのかがわからない。
サブディスプレイの下にあるボタンを押すと、通常はサブディスプレイの表示が切り替わったりライトがついたりするのだが、
接触不良なのか、時々まったく反応しないことがある。
これもやはり規則性がまったくない。
804Nは電話帳に登録してあるそれぞれの番号に対してメールや電話の着信音を設定したり
バイブの長さを設定したりすることができる。
だが、私が設定したことがまったく反映されない。
しかも、その時々によって違う鳴り方をする。
例えば、Aさんからのメールを受信した際はバイブ1と設定してあるにも関わらず、
あるときはバイブ1、またあるときはバイブ3が鳴るという具合だ。
これもまったく規則性がない。
私はすっかり困ってしまった。
規則性がないが故にお店に持っていって『こんな風になるのだ!』と突きつけて文句を言うのも難しそうだし、
かといってそのまま残り1年半も2年も不具合だらけの804Nと付き合っていく自信もない。
困って考え込んでしまっていたある日の晩、メールを作ろうと電話帳を呼び出したときに連続5回電源が落ち、
ついに腹に据えかねて次の日の朝っぱらから私はお店に携帯を持っていった。

 経緯をまた一から話すのも面倒なので、あらかじめ店長さんがいることを確認した上で
私みたいなのに捕まってしまって気の毒だなぁと思いながらも、何時に伺いますので、と伝えて
店長さんを名指しで応対してもらった。
お店での対応は予想通りだった。
おそらくUSIMカードが原因ではないだろうと言いながらも念のためにUSIMカードをチェックしてもらい、
USIMカードは不良ではないという結果が出た。
ちょうどうまい具合にお店にいる間にメールを作った際に電源が落ちたので、店長さんに見てもらった。
他の不具合についても説明したところ、返ってきた言葉は『修理に出してみられますか…?』
また修理に出して3週間近くも待たされたのではかなわないと思って、改めて別メーカーの携帯への機種変更を依頼した。
しかし、一度お店負担で新品の携帯と交換した履歴がある以上、お店ではもう何もできないと言われた。
できることといえば、修理に出し続けることだけらしい。
私は修理の話を蹴って不具合だらけの携帯を抱えて帰った。

 帰ってから157のお客様相談センターの故障不具合のチャンネルに電話をした。
女の人が出たので、簡単に事情を説明した上で別メーカーの機種と交換してほしいと話した。
女の人は困惑したように『申し訳ありませんがこちらではそのようなご対応はさせて戴いておりません』と言う。
私は丁寧に『責任者の方とお話をさせて戴きたいのですが』と頼んだ。
女の人は『えっ…と、どのようなお話でしょうか』と言う。
私は『今お話した通りです。今後のことについて話がしたいので』と言った。
女の人は『あの…ぉ、機種変更のことでしたらボーダフォンとしてのお答えになりますが、そのようなことは行っておりませんが…』
としつこく食い下がってきた。
少し面倒になってきたので『知ってます。もうそれ10回くらい聞きましたから。責任者の方と話をさせて戴けますか?』と言った。
また『お話というのはどのようなお話でしょうか…』と同じ質問の繰り返し。
答えるのが面倒になってしまったので『責任者の方に直接お話します』と言うと、まだ渋る。
『えー、責任者でございますか…、責任者とおっしゃいましても…』と言うので
悪いとは思ったが言葉を上からかぶせて『責任者の方、いらっしゃらないんですか?』と言うと、しつこく
『ええと、責任者の者にどのようなご用件で…』と言う。
ああしつこいと思いながら『責任者の方はいらっしゃるんですか、いらっしゃらないんですか、
私はさっきから責任者の方とお話がしたいとお願いしているんですけれども』と言うと、
ようやく観念したかのように『お待ちくださいませ』と呟いて電話口から消えた。
しばらく待たされた後、女の人が電話口に戻ってきて上司から今日中に折り返し電話させると言う。
今日中に、と言われてもそのときはまだ朝だった。
大体何時頃になりそうか、と尋ねると、不機嫌そうに『晩は20時まで営業しておりますので、
今日と言いますのは、それまでの間でございます』と言われた。
やな奴、と思いながら電話を切ると、その数分後に上司と名乗る男の人から電話がかかってきた。

 開口一番『申し訳ありません、何度もお電話頂戴致しまして〜』と言うので人違いかと思った。
私は1回しか電話していないからだ。
だが、もしかすると私はブラックリストか何かに載っていて最近電話したクレームの数々を記録されているのかと思い、
おとなしく『はい』と言っておいた。
いちいち言葉のリアクションの大きい人で「申し訳ありませんでした」の声がやたらと大きな人だった。
勝手に今回発覚した不具合についてのみ言及しようとするので、ちょっと不愉快になり、
途中で遮って『一番最初からお話してもよろしいですか?』と尋ねると『お願いします』と言われた。
妙に腰が低く、不具合の一つ一つの事象に対して『申し訳ございません』とうるさい。
私は最初に804Nを買ってから次々と起きた不具合について順番に話をしていった。
できるだけ感情を挟まず淡々と説明したつもりだったのだが、157の故障不具合担当の人から
アフターサービスに関する嘘を吹き込まれたというところにさしかかったときはほんの少し感情的になってしまった。
そのときに電話応対をしてくれた男の人の態度が本当にひどかったので余計に感情を抑えられなかったのかもしれない。
思わずさらっと嫌味を言ってしまった。
『〜〜と言われたんですけど、実は嘘だったんですってね』
しかし、それまで馬鹿の一つ覚えのように「申し訳ございません」を繰り返していたその人だったが
嫌味のところだけ完全に無反応だったので、先を続けた。
まぁそうだろう。
いちいち嫌味に反応していては人の上に立つことなどできまい。

 その人は、私が数々の不具合の説明を続けている間はずっと低姿勢で「申し訳ございません」を繰り返していたが、
最後に私が、だから別のメーカーの機種と交換してほしいのだと言ったところ、急にがらりと態度が変わった。
妙に横柄で人の言葉の上から言葉をかぶせて自分の喋りたいことを喋り、非常に無意味なことを提案してきた。
言葉遣いこそ丁寧なものの、譲歩の姿勢はこれっぽっちもなく、ただ自分の提案を受け入れろ、と強硬に圧迫してきた。
その提案というのが、本当に無意味だったのだが、私の804Nの携帯を一度修理に出せ、ということだった。
今持っている804Nを修理に出して、修理から返ってきた時点で電話をすれば会議にかけて別メーカーの機種と変えてやる
というようなことを、こちらの意見をまったく聞かずに喋り続けた。
私が、既に一度修理に出しているのにもう一度修理に出すのは嫌だと断ると、まるで脅すかのように
『お客様、ですからね、私どもと致しましてもご提案申し上げているわけでございますよ。
私どもと致しましてですね、お客様の特殊事情を十分にご考慮させて戴いた上で、
今回はお修理に出して戴ければその後で機種変更させて戴くと、このように申し上げているわけでございます、云々云々…』
何だか、時々テレビで見る振込め詐欺の電話の人みたいな喋り方をするなぁ、と思った。
申し訳ないという態度では全然なかった。
偉そうで、直接顔を見て話をしていたら、きっと『なんだ、偉そうなこと言いやがって』と頭でもはたいていただろう。
それでも、結局は私が折れてまたもや携帯を修理に出すことに同意せざるを得なかった。

 修理に出す際に急いでくれ急いでくれ、できるだけ早くするようにメーカーに言ってほしいと懇願したにも関わらず、
修理から返ってくるまでにやはり9日という時間を要した。
携帯が修理から返った時点で157の責任者の男の人に電話をしたところ、本日はもう退社致しました、と言われた。
まだ18時にもなっていなかったのだが。
次の日、その男の人から電話がかかってきた。
修理の内容や結果等、少しくらい何か聞かれるだろうと思って、修理伝票に目を通して大体どこを交換したか
どこを修理したかということを抑えていたのだが、何も聞かれなかった。
電話に出るといきなり『お修理に出して戴き、ありがとうございました。それでですね、ご希望の交換機種はもうお決まりですか?』
と聞かれた。
それほどあっさりと交換する用意があるのなら、私は一体何のために携帯を修理に出したのだろうか?
私は何のために恥ずかしく嫌な思いをして巨大で不格好な代替機を9日も使う必要があったのだろうか?
本当にわけがわからない。
意図が掴めない。
一体何なのだ、と思いながらも希望するシャープの機種と色を答えると
『わかりました、では今から発注部門に発注をかけますので10日前後でお手元に届くと思います』と言う。
修理から返ってきたら会議にかけるのではなかったのか?
私が携帯を修理に出すことに具体的に何の意味があったのか聞こうかと思ったが、
何だか、もうどうでもよくなったのでやめた。
まるで、猿回しの猿になった気分だった。
送り先を今回の不具合でお世話になっているボーダフォンショップにしてもらい、その旨をお店に連絡して
受け取ったら少し預かっておいてくれるよう依頼した。

 それから9日後、商品が明日お店に届くという内容のメールがきた。
次の日、お店に携帯を取りに行った。
これまでがこれまでだっただけに、もしかして理不尽にも事務手数料等々取られるのではないかと
相当緊張しながら行ったのだが、拍子抜けするほどあっさりと何の障害もなく簡単に受け渡してもらえた。
新しい携帯に電話帳データを移してもらって簡単に804Nの行く末について説明を受けてお終い。
交換ということなので、今まで使っていた804Nの携帯は一式送り返さなければならないそうだ。
着払いの伝票が入っており、804Nの何から何まで一式揃えて2週間以内に送り返すようにとのこと。
そんなことは何でもないことだ。
私はもちろん快諾した。

 NECではない新しい携帯を手にして思う。
人にもよるのかもしれないが、私にとっては804Nよりも圧倒的に使い勝手がいい。
わがままと言われるかもしれないが、執念と言われるかもしれないが、やはり変えてもらってよかった。
何といっても不具合がない。
少なくとも、今のところは。
2回目の修理から返ってきた804Nは、基盤の交換までしてもらったにも関わらず、メール作成時に電源が落ちたというのに。
動作の速度も全然違う。
804Nは一つ一つの動作が果てしなく遅かった。
ただの受信メールフォルダを開くのに10秒以上かかることもあった。
ただ、お店のデモ機をいじっているときは私の804Nほど動作が遅いとは感じなかったので
もしかすると、動作が遅すぎるのも私の804Nに限った不具合だったのかもしれない。
とにかく、修理に出しても交換しても不具合の多い携帯だった。
変えてもらって本当によかった。
あんな故障だらけの804Nと後1年半も2年も付き合っていくことは到底できない。

 さて、私は少し前に、物事を早く片付けるために今後はお行儀悪くなろうと心に決めた。
自分には難しい課題だとは思いながらも冷静さをかなぐり捨てて物事に当たる努力をしようと思っていた。
しかし、今回もやはり最初から最後まで冷静に理性的に丁寧に筋道立てて話を進めてしまった。
そして、それを密かに誇りに思っている自分がいる。
自分の感情のままに暴言を吐いたりひどい態度をとったりすることは何と難しいのだろうと改めて思う。
もしかすると、私には一生できない芸当かもしれない、と今は少し弱気になっている。






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