上手に生きられない友

 私が大切にしている友人は生きることが本当に下手な者が多いと思う。
生きることが下手くそだから私が大切にしてしまうのか
たまたま私が大切にしている人間が上手に生きられないのかわからないが。

 私が高校のときから大事に大事にしている友達がこの度離婚することになったらしい。
私の変な友人の中でも群を抜いて変な子で、生きることが非常に下手くそだ。
不器用であるが故に、私の周りで妙な人生を歩んでいる人間の中でも群を抜いて妙な人生を歩んでいる。
彼女は30歳を目前にしてまだ大学院生をしているらしく、博士論文が書き上がらないと嘆いている。
しかも、現在海外に留学中ときている。
更に、数奇な人生の途中で国際結婚までした。

 私はそう遠くない過去、外国に住んでいた彼女達夫婦のもとを訪れたことがある。
非常に思慮深く知的で真面目そうで頑固そうな夫だった。
友人から、事前に何度か私と彼女の夫は似たところがあると聞かされていたが、
私から見ても、確かに彼と私の思考回路には共通点があった。
我々はパソコンの部品の話等で盛り上がり、我が友人をそっちのけでいろいろ語った。
短い滞在期間の間で、当然だが彼は決して悪い人間ではないという印象を受けた。

 彼らは周囲の反対を押し切って結婚したらしい。
彼らは決して裕福ではないが幸せに暮らしていた。はずだ。
彼らは文化の違いを乗り越えて幸福を掴んだ、と思っていた。
実際は、彼らは「愛情」という薄皮1枚で繋がっていた。

 人の心はうつろいやすい。
離婚云々について私は彼女からある程度説明を聞いた上で意見を求められた。
私は最終的に彼女の好きにすればいい、と答えた。
彼女は自分で離婚することを決めた。
今回の話は夫から持ちかけられたらしい。
彼らの間には非常に複雑な事情がたくさんたくさん山積みにあった。
彼女の夫は決して彼女のことが嫌いになったわけではない。
彼女も当然相手が嫌になったわけではない。
私が彼女から聞いた話を私なりにまとめると、結局のところ
相手の男と彼女との文化の違いが一番の問題だったのではないだろうかと思う。
こんなことを当事者に知られたら、そんなことは問題ではなかったと言われるかもしれないが、
私が彼女から受けた説明の至るところに文化の違いが大きく影響していると示唆するところがあった。
彼女の夫は彼女のためによかれと思って離婚を申し出たそうだ。
そして、彼女は最終的にそれを受け入れざるを得なかった、と聞いている。
どういう理由にしろ、お互いが文化の違いを乗り越えることができなかったということだと思う。
彼女にも言ったが、私は彼女を擁護する気はない。
かといって、彼女の夫の味方につくつもりもない。
だから、どちらがどうだとかどちらが悪いとか批評する気はさらさらない。
ただ、それだけのことだと思って、今ここに書き記している。

 彼女は弱い。
強がりで見栄っ張りで意地っ張りで頑固で不器用でくそ真面目で、打たれ弱い。
私にとって大切なのは、彼女が私の友達であるということだけだ。
彼女が彼女であることだけだ。
どの国に住んでいようと誰と結婚しようと関係ない。
私は彼女が彼女らしくあってくれればそれでいい。
だが、当たり前のことだが彼女にとってはそうではない。
私がこの離婚騒ぎの一件で一番心配したのは彼女の弱さが前面に出てくるのではないかということだった。
最終的な結果が出るまで、彼女はやはり強がっていた。
案の定、結論が出たら出たで自分で結論を下したくせに彼女はぼろぼろになっている。
私達は直接会うことも電話で喋ることもしないので、やり取りは専らメールばかりだが、
彼女から送られてくるメールの全面が苦しみと悲しみで覆われているように見える。
気丈な言葉を書き連ねてくることもあるが、文章が「私は強がっているだけなの」と泣いている。
そんな彼女の文章を見る度に心が痛む。
私の友人も彼女の夫も、どちらも悪くはない。
だからこそ、彼女は感情のやり場に困っているに違いない。
彼女の人生は見れば見るほど、聞けば聞くほどつまづいてばかりだ。
普通の人ならばするりとすり抜けられるはずのことでも、彼女は不器用なために悉くひっかかる。
彼女はここへきてまた大きくつまづいてしまった。
そして、私は何をしてあげることもできない。
私は彼女に一体何をしてあげればいいのだろう。
一体何をしてあげることができるのだろう。
私はただただ彼女の悲しいメールを眺めることしかできないのだろうか。
自分の無力さを思い知らされて心が締め付けられる。






back
back to TOP世渡り下手の物語







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送