契約の押し売り

 今の住処に落ち着いて2年弱経った先日、初めてNHKが受信料金の徴収に来た。
まったく予期していなかった訪問者に、私は思わず『NHKはみていません』と嘘をついた。
通常なら放送法のことやその解釈法などきちんと理解して嘘などつく必要もなく理論武装しているはずなのだが、
唐突だったため、思わず世にも大間抜けな嘘をついてしまった。

 ええ、確かに私は嘘をつきました。
嘘が嫌いな私です。
NHK、コマーシャルがないのでみています。
NHKの受信料制度やそのやり方には前々から不信感を抱いておりました。
そのうさん臭い集団にお金を払うのが嫌だという感情的な理由だけで嘘をつきましたとも。
情けない。

 自分のついた嘘に自分で呆然としていると、集金に来たおにいさんだかおじさんだかよくわからない男の人は
寒そうに震えながら鼻水をずるずるすすりつつ『皆さんそうおっしゃるんですけど、、、』と言って
放送法第32条が書かれた小さい紙を取り出して説明を始めた。
NHKをみようがみるまいが、テレビを持っている世帯はNHKと契約する義務があるそうだ。
つまらない嘘をついてしまったということですっかり動揺してしまった私は、
放送法で義務付けられているという説明を受けて言われるがままに受信料金を払った。
法律で定められていると言われれば、曲がりなりにも大学で法学部に在籍していた身としては無視するわけにもいかない。
しかし、高かった。
目が落ちるかと思ったほど高かった。
1ヶ月、1,395円。
生活を切り詰めている貧乏人に毎月そんな大金が払えると思うのか。
もしも、NHKをみているだろう、受信料を払え、と言われたならば、私は間違いなく二度とみないだろう。
紙に名前と住所を書かされ、勝手に何かの機械に登録され、私は非常に不快に思った。

 集金人がお釣りを計算している間、放送法第32条をじっくり読んだ。
集金人は鼻水をすすりつつ『申し訳ないです』『すみません』を連発しながら
『テレビを持っている世帯様は義務となっておりますので…、すみません』と説明してくれた。
それならば、と思って『じゃぁ、テレビを処分したらもう払わなくていいんですか?』と尋ねた。
『はい、テレビがなければ、もうご訪問する理由もございませんので…』とのことだった。
『そうですか、それなら今月中にテレビは処分します』と言った。
『はい…、すみません』とまた謝られた。

 私は決して裕福ではない。
それでも、当然ながら筋の通ったことへの対価はきちんと支払う。
だが、その分、自分が納得できないことにお金を出すのは嫌だ。
放送法第7条には「協会は豊かで良い番組を放送することを目的とする」というような文言が入っているが
最近のNHKをみていると、決して豊かでいい番組を放送しているとは思えないことが多い。
そう言っているのは私だけではない。
はっきりいって、お金を払ってまでみる価値のある番組などほとんどないと思う。
だから、NHKをみるなら受信料を払えと言われればNHKはみない。
何故「視聴の有無とは無関係にテレビを持っているだけでお金を払う」必要があるのだろう。
限りなく寄付に近い。
しかも、その寄付を取立てにくるなんて、寄付の強制徴収ではないか。
その上、NHKの人間が不祥事を起こす。
人のお金で何をしていることやら、だ。
わざわざ使途不明金を払ってあげるほど私は心優しくはない。
私には、盲導犬募金を騙った詐欺集団と同じに思える。
しかも、2年弱も経った今頃になって初めて『契約は義務ですから』と言う。
じゃ、私の過去の2年弱の義務は一体どうなる?
更に、強行に断られた世帯への徴収は行わず放置するらしい。
そんな中途半端な義務があるだろうか?
少なくとも、私はそんなものは義務とは呼ばない。

 そもそも、契約というのは双方の合意の下に取り交わされるものではないのか。
このような押し付けがましい契約などというものが存在していいのだろうか。
大体、契約書は?
契約を結ばされたというのに、契約書すらない。
それを契約と呼ぶというのもおかしな話だ。

 ネットで調べてみると、皆非常にいろいろと自分なりの放送法の解釈をお持ちのようだ。
よく考えるなぁ、とか、よくそこまで深く調べたなぁ、と感心する。
私は元法学部生のくせにそこまで掘り下げて解釈を求めるつもりは、今のところない。
ただ、何故、視聴の有無に関係なくお金を払わなければならないのかがわからない。
何故、テレビ1台につきいくらではなく1世帯につきいくらなのかがわからない。
何故、2年弱も放っておいたくせに今頃「義務だ」と言えるのかがわからない。
1ヶ月辺りの受信料の、その数字の根拠がわからない。
今の私には納得のいかないことのために費やせるものは精神的にも経済的にも、何一つない。
だから、やむなくテレビは処分することにした。

 別に、本当にテレビを処分しなくても次回集金に来たときに 『テレビは壊れた』とか『テレビは処分した』とか嘘をつくだけでも事足りるに違いない。
本当かどうか見せろ、と言って入ってくることもないだろう。
そんなことをすれば、日本国憲法に反することになる。
だが、私は上手に嘘をつくことができない。
それに、嘘というものは本当に大切なときにつくものだ。
こんなくだらないことのために嘘をついてはいけないと思う。
従って、集金に来た人に確認した通り、テレビは必ず今月中に処分する。
但し、こちらも放送法に準拠した対策は取らせてもらう。
筋の通らないことをしようとする輩のためにこちらが筋を通してやらねばならない。
馬鹿げていると思う。
私が筋を通してやる必要があるのか?
疑問が尽きない。






back
back to TOP世渡り下手の物語







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送