血の気が多いのかしら

 私は人一倍怒りんぼである。
人一倍どころではなくて何十倍も怒りんぼかもしれない。
そして、私の堪忍袋の尾は短くてとても切れやすい構造になっているらしい。
すぐに頭に血が昇る。
自分でもそれは自覚しているので、何とか最初から堪忍袋に触らないよう努力はしているのだが、
私の堪忍袋はとても敏感のようで困っている。
そもそも、怒りの沸点がとても低く、非常に些細なことですぐに沸点に達してしまう。
先日も些細なことで血が沸騰してしまった。

 私は派遣社員。
派遣社員というのは何かと難しい立場にある。
派遣元に気を遣い、派遣先にはもっと気を遣う。
ただでさえ肩身の狭い思いをしているというのに、派遣元の事務職の人間の
あまりにも非常識な言動に、血が沸騰してしまった。

 派遣とは面倒なもので、出勤簿を毎月派遣元に提出しなければならない。
方法は、郵送やFAXなどいろいろで、私の場合はFAXを送ることになっている。
しかも、前半と後半2回FAXを送らなければならない。
私は毎月期日までに派遣会社にFAXを入れるようにしている。
初めの頃に、FAXがちゃんと着いたかどうか確認した方がいいでしょうね、と提言したところ、
締めの時期はFAXが大量に流れ込んでくるので着信確認の電話等は却ってややこしくて迷惑だと言われた。
送信用紙も邪魔になるので出勤簿だけシンプルに流してくれればいいと言われた。
ならば、せめて誰宛のFAXかわかるように派遣会社の担当者の名前を入れた方がいいのでは、と言うと、
事務処理をする担当は頻繁に変わるので名前は入れない方がありがたいと言われた。
それでちゃんと処理してもらえるのなら、と思って不安ながらもそのシステムに従っていた。
ところが、こちらは真面目にFAXを送っているにも関わらず、しょっ中電話がかかってくる。
出勤簿を早くFAXしてください、今日中にFAXしてください、と。
前日に送ったと言っても届いていないと言う。
その度に、派遣元と派遣社員の内輪事なのに、派遣先の人に外線をとってもらって電話を回してもらい、
派遣先のFAXを使って派遣元にFAXを送り直さなければならない。
何とかならないものかと思いながらもいちいちFAXを送り直してきた。
以前に一度、ちゃんと確認してから電話してほしいと文句を言ったことがあるのだが、
その数ヶ月後の給与明細を見ると半月分しかお給料がなかった。
確認の電話を入れると『出勤簿が届いていないようだったのでぇ〜』と言われた。
それ以来、余計なことは言わないようにして素直に送り直すことにしていた。

 さて、先日もまた派遣会社の事務部門から電話がかかってきた。
普通、派遣元は自分のところから出している派遣社員に対する伝言を派遣先の社員に託すことはない。
いわゆる内輪事なので、伝言を残すにしてもせいぜいが「折り返し電話ください」程度だ。
それが、今回電話してきた事務部門の人間は、私が席をはずしていたという理由で
派遣先の社員の人間に用件の伝言を残したのだ。
「出勤簿を今日中にFAXしてください」
たまたま私の今いる職場では、派遣社員だからといってあからさまに差別する人はいないので助かったが、
会社によっては派遣社員だというだけで蔑んだり差別したりする人間もいる。
もし、そんな会社で社員に伝言など残されたら、派遣社員はますます居心地が悪くなる。
何てことしやがるんだ、しかも私は昨日ちゃんとFAXしたし
送信済みの表示になったことまで確認したのに、と思い、
思わず派遣会社の事務部門の電話をしてきた担当者に電話をかけた。
できるだけ丁寧に『先程、出勤簿の件でお電話を戴いたかと思うのですが』と切り出すと、話を最後まで聞かずに
『ああ、はい。今日中に処理しないと間に合わないんでぇ、すぐにFAX送ってもらえませんか』
と返してきた。
それでも、できるだけ丁寧に『昨日FAXは送って送信済みであることも確認したんですけど、本当に届いていませんか?』
と言うと、『はぁ?どこに送ったんですか?』と逆に問われた。
どこにってあなた、そこにに決まってんじゃん、他にどこに送るんだ馬鹿者、と思いながらFAX番号を言うと
『あー、そうですか、番号はそれですけどぉ、でもこちらでは確認できてないですね』と切り捨てられた。
ことあるごとに派遣先の人間に伝言を残されては迷惑になるので
今後の対策として何かした方がよいことはないかと尋ねてみた。
あくまで丁寧に『FAXが届かないという電話を頻繁に戴くのですが、何かした方がいいことはありませんか?
着信確認の電話を入れるとか、何かわかりやすいようなことを出勤簿に書き加えるとか』
しばしの沈黙の後、相手は面倒くさそうに『送り直してもらえません?』と宣った。
馬鹿じゃないかと思って、私は怒っているのに何やら笑いがこみ上げてきた。
『いや、勿論送り直します、今回は送り直しますけれども、今後のために何か対策として
しておいた方がいいことはないかとお尋ねしているんです』と言うと
『じゃぁあ〜、私の名前を書いて私宛に送ってください。今月から担当私に変わったんでぇ』と言うので
『わかりました。では、今から再度送る分と今後のFAXに関しては○○さん宛にお送りしたらいいのですね?』と確認すると
『ああ、はいはい、それでいいです』と少しふてくされたように面倒くさそうにそれだけ言って勝手に電話を切られた。

 私の怒りが本当に沸点に達したのは、電話を一方的にがちゃっと切られたそのときだと思う。
それまでは私の堪忍袋の尾はかろうじて繋がっていたのだが、電話が切れたと同時に怒りは沸点に達し、尾っぽも切れた。
何故、私がこんなに気を遣わなければならないのだ。
私は電話の受話器を本体に叩きつけた。
会社の備品なのに。

 結局、その件に関しては自分自身が落ち着いて自分なりに言葉を整理した上で、
後日別件でコンタクトをとってきた派遣会社の営業の人に注意を促してもらうよう依頼するだけに留めた。
こういうことは第三者を介して話をした方が円く治まることを私は経験則により知っている。
感情的な人間同士が感情的にお互いの主張をぶつけ合ったところで解決はしない。
幸い、派遣会社の営業の人は事情をよく理解してくれたようだったので助かった。
実際はどうしたか知らないが、事務部門の担当者にもよく言い含めておくと言ってくれた。

 堪忍袋の尾が切れて時が経って再生して血も冷えて流れ出すと、ほとんどの場合において自己嫌悪に陥る。
今回のことも自己嫌悪の対象になる。
頭の悪い小娘と会話を交わしただけじゃないか。
社会人とは思えない人間はたくさんいる。そんな人間のうちの一人と話しただけじゃないか。
こんなことでいちいち怒っていたら、私は近いうちに脳卒中か何かで死んでしまうに違いない。
まだまだ修練が足りない、もっと怒りを抑えなければ、と思う。

 私はもう怒りたくない。
怒るとくたくたに疲れる。
どこかに怒りの融和剤はないものだろうか。






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