五里霧中

 久しぶりに学生時代の友人と会った。
彼女はこれまでも何度も私を誘い出してくれていたが、私はその度に何となく断っていた。
久しぶりに会った友人は、久しぶりに会うからと言って怒涛のようにひたすら喋った。
どこから仕入れているのか、恐るべき情報通で昔の仲間の現況を非常によく知っており
持っている知識を全身全霊で事細かに話してくれた。
彼女自身の近況と我が仲間の近況及び後輩達や先生達の話が私の耳に流れ込んできた。
女というのはなぜこうも喋ることがあるのかと半ば呆れながら半ば感心して
私は適当に相槌を打ちながら彼女の話に耳を傾けていた。
途中から別の友人も加わり、話は大いに盛り上がっていた。
私は特に話すべきこともなく、何となく話に集中できずに黙って彼女達を眺めていた。

 昔の話から現在の話に至り、仲間の近況を聞いているうちに妙な気分になった。
彼女達の話を聞いている自分が現実なのか何なのかよくわからなくなってきたのだ。
というか何というか、かつては確かに仲間だった人達がまるで知らない人達のように思え、
仲間だったはずなのに何だか薄靄がかかったようになってよく見えない。
断片的にはわかるものの、彼らの現在と昔が結びつかない。
彼らの結婚生活の話や子供の話、子供の名前や特徴に至るまで聞いていると、
この子達は一体何の話をしているのだろう、一体誰の話をしているのだろうと、
私は自分がひどく場違いなところにいるような気がしてだんだん居心地が悪くなった。
私が彼らと過ごした膨大な時間がいつの間にか50年も100年も前のことのように思えた。
自分から彼らと距離を置いていたのが悪いのだが、別世界に迷い込んだような気がした。

 私は仲間のことまで忘れてしまうほど変わってしまったのかと悲しくなった。
だが、実は私は変わったのではなく変わっていないのではないだろうかとふと思った。
友人達は自分の道をしっかり歩み、自分の道を自分で作って進んでいるというのに
私は何も変わっていないのかもしれない。
だから、何も話すことがなく話にも加われなかったのかもしれない。

 ここ数年、自分では精一杯頑張っているように思っていた。
しかし、実はもがいているだけでずっと同じ場所で足踏みしているだけなのではないか。
皆はちゃんと前進しているのに私はちっとも進めていない。

 私はこれまで何をしてきたのだろう。
本当に頑張ってきたのだろうか。
自分に甘すぎるのではないだろうか。
自分自身に自分は頑張っているのだと信じ込ませているだけで、実はただ漫然と毎日を過ごしているのでは。
私は本当に前に進んでいるのだろうか。
私は今、どこにいて何をしているのだろう。
私は一体何?






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