犯罪者と無関係者との関係

　日本はアメリカを「犯罪大国」と呼ぶことが多い。
しかし、私が思うに日本も今や立派な犯罪大国なのではないだろうか。
私は新聞のページをめくるときの質感が嫌いで新聞に触ることを極力避けているので新聞を読むことはしないが、
一応毎日インターネットやテレビなどで一通りのニュースは仕入れているつもりだ。
毎日毎日よくそれだけ犯罪のニュースがあるな、と呆れながら見ている。
更に、現段階では公にできずに水面下で動いているもっと悪質で奥深い犯罪もあるだろう。
そういうことを踏まえると、十分犯罪大国といえるのではないだろうか。

　今や日常的に起きている殺人事件のニュースを見ると心が痛む。
ことが多い。
「ことが多い」というのは、中には殺された輩は馬鹿じゃなかろうかと思ってしまう事件もあるからだ。
でも、やはり殺されるほどは罪のない人間が殺されたという報道を耳にすると心が痛む。
犯人がすぐに捕まらないと、見たこともない（と思われる）犯人に対して憤る。
だが、そうは言ってもどうしても他人事として捉えてしまっている自分がいる。
「人を殺すなんて最低」「かわいそう」「恐いなぁ」
それだけで終わってしまうことが多い。
なかなかそれを自分や自分の周りの出来事として捉えることが難しい。

　ところが先日、私が非常に大切にしている人のすぐ近くで殺人事件が起き、犯人は未だ捕まっていない。
その話を聞いたとき、血が凍るような想いをした。
殺人事件のニュースを聞いてそのような感情を抱いたのは初めての経験だった。
私の手の温度は気温と共に変化するという性質を持っているようで、
気温の低い日は手で氷を持っても氷が全然溶けないくらい手が冷たくなる。
だが、その話を聞いたときは気温の変化とは無関係に指先が冷たくなった。
しばらくは毎晩怖い夢を見て夜中に何度も目が覚めた。
殺された人と私の近しい人とは全く無関係で、憎き犯罪者の手が私の近しい人に及ぶ可能性は
限りなく低いことは頭ではわかっているものの、気掛かりで心配で仕方がない。
少しでも連絡がないと、何かあったのではないか、何か起きたのではないか、と一人で気を揉んでいる。
馬鹿げているとは思うのだが、そういうものらしい。
少しだけ、親の気持ちがわかったような気がした。

　どこでも同じなのかどうかは知らないが、私の両親は揃ってとても心配性だ。
大学２年生のとき、日曜日にクラブが長引いて家に連絡できないまま晩の８時頃帰って
こんな時間まで云々…連絡くらいできないのか云々…、と言って叩かれた。
滅多に子供に手をあげることのない親だ。きっと相当勝手に心配していたのだろう。
今でも何かと勝手に心配しては電話をしてくる。
一言でも『風邪をひいたかもしれない』などと言えば、毎日電話がかかってくる。
薬は飲んだのか、熱はないのか、病院に行かなくても大丈夫か、そっちに行ってあげようか。etcetc...
治ってからも頻繁に電話をかけてくる。
完全に治ったのか、油断すると再発するから気をつけなさい、ぼけーっとしていたらだめよ。etcetc...
近くでコンビニ強盗が発生しようものならすぐに電話がかかってくる。
近くじゃないの、気をつけなさいよ、コンビニには足を踏み入れないように、
防犯アラームを持ち歩きなさい、戸締りはしっかり。etcetc...
夜中に私が苦しんでいる夢を見たといっては電話してくる。
何かあったんじゃないか、何か変わったことはないか、変わったことが起きそうな兆しはないか、etcetc...
考えても考えても何も変わったことはないのでそう伝えるとがっかりしたように電話を切る。
私が家を出ることになったときも、自分達にも原因の一端があるくせに
『２日間連絡が取れなかったら警察に捜索願を出す』と宣言された。
ガキじゃないのに…。

　話は逸れたが、身近で大きな犯罪が起こりその犯人が捕まっていないということで
私はこれまで以上に犯罪というものを憎むようになった気がする。
犯罪を犯すということは非常に重い責任を負うということだと思う。
被害者の関係者に迷惑をかけるだけでなく、その周辺の無関係な人間、
更にはその無関係な人間の関係者にまで少なからず嫌な思いをさせることになるのだ。
今回の殺人事件がどういう経緯で発生し、犯人が何故逃げているのか私は知らない。
もしかしてもしかすると、そう考えたくはないが起きるべくして起きたものなのかもしれない。
だが、犯してしまった犯行にはきちんと責任を取ってもらいたい。
今更取り消すことは不可能なのだから、せめて人の心を掻き乱すのはやめてほしい。
速やかに出頭してくれないことには一番無関係な私の心が休まらない。

　物騒な世の中にはうんざりさせられる。

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