小さな紳士

 車も人も自転車も多い市内を小学生の一群が歩いていた。
おそらく、集団登校というやつなのだろう。
少年が7,8人。
一番年上は4・5年生くらいの少年で残りは皆小さかった。

 少年達の後ろから自転車が1台やってきた。
少年達が歩道いっぱいに広がって歩いていたため自転車は通れず、
ベルを鳴らそうかどうしようか迷っている様子だった。
小さい少年達は自転車が後ろにいることに気づいても道を譲ろうとはしなかったが、
一番年上の少年は自転車が自分達の後ろで往生していることに気づくと
小さい少年達をまとめ始めた。
『おい、端っこに寄れ』
『1列になって歩けって』
『自転車、自転車!』
そうは言うものの、何せ小さい子供のことである。
そう簡単に人の言うことは聞かない。
皆広がって歩きながら好き勝手にうごめいていた。
それでも、一番年上の少年は諦めることなく小さい子達に注意を促し、
やっとのことで小さい子供達をまとめあげて1列になって歩かせることに成功したのだった。

 実は私も少年達の後ろに位置していて、広がって歩いている様子を苦々しく見ていたので
彼らの動向をずっと興味深く眺めており、最終的に1列になったときには
一番年上の少年の肩でも叩いて褒め称えたい気分だったのだが
その少年はそれだけでは終わらなかった。
後ろでずっと待っていた自転車のおじさんに向かって
『すみませんでした』と頭を下げたのだ。
更に、私の存在に気づくと
『すみません、どうぞ』と言って道を空けてくれた。
私はよく人々を睨みつけながら通行するのだが、私とていつもいつもそのような不躾な態度をとるわけではない。
私が人を睨みつけるのは、その人が人間としてあまりにも間抜けな行動をとるからである。
常識ある人に対しては礼儀正しくする程度のお行儀のよさは持ち合わせているつもりだ。
だから、道を空けてくれた少年に対してきちんと頭を下げて
『ありがとうございます』とお礼を言って通してもらった。

 いたるところでよく見かける、狭い道で煙草をふかしながら偉そうに幅をきかせて歩いている低俗なおじさん達に
あの涼やかな少年の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい気分だった。
本当に、「男の子」というよりも「紳士」と表現する方がぴったりくる少年だった。






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