多分桜か梅か桃

 狂ったようにいたるところで鳴り響く車のクラクション、乗用車やトラックから排出される黒い排気ガス、
携帯電話で大声で喋る人々、自転車のブレーキやベルの音、エンジンをかけっ放しの路上駐車、煙草の煙、
毎日通るその環境劣悪な街中を今日も私は通っていた。

 信号で止まったとき、何気なく周りを見回すと、おそらく排気ガスによってだろうが
壁が真っ黒になった家があった。
そして、その家の前には薄いピンクの花や蕾をつけたあまり大きくない木が1本立っていた。

 私は花には興味がない。
だから、名前も知らない。
未だに桜と梅と桃の違いもわからない。
昔、薄い色の花は桜、濃い色の花は梅、と無理やり覚えたが
大きくなって薄い色の梅や濃い色の桜があると知って以来、ますますわからなくなった。
更に、桃の木が入ってくるとさっぱりわからない。

 そういうわけで、多分その木は桜か梅か桃の木なのだろうということしかわからなかった。
排気ガスで薄汚れた空気や壁や雰囲気の中の妙に綺麗な薄いピンクの花びらにしばらく目を奪われた。
今までその木の存在に気がついたことはなかった。
あまり大きくないからだろうか、幹があまり太くないからだろうか、周囲の環境のせいだろうか、
私には、その木がとても可憐で一生懸命に立って蕾をつけているように思えた。
何の木なのだろう。
いつから存在しているのだろう。
皆は気づいているのだろうか。

 喧騒に包まれた空間の、そのひたむきな佇まい(ただの主観)に
私は朝から何だかひどく切なくなった。






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