本に詫びた日

 はっきり言って、私は本棚の整理があまり好きではない。
過去に何度も手掛けたことはあるのだが、散らかるばかりで一向に片付かない。
なぜかというと、要するにこういうわけである。
『本棚の整理をしよう。』
必要な本と不要な本を分別するために本棚に手を伸ばして本を数冊抜き取る。
『要る本は自分の左側に置く。要らない本は自分の右側に置くことにしよう。よし』
『あ、この本…。そういえば、あの場面はどうなるんだっけ』
本を開く。
そのまま最後まで本の世界に入り込む。
その繰り返しが数冊分続いた後、本来の目的を思い出して慌てて自分に言い聞かせる。
『私は今は本の整理をしているのだ。真面目にやらなければ、真面目に』
また新たに本棚から本を数冊抜き出し、真面目に分別を始める。
『えっと。これは要る』
『これは絶対に要る』
『これは手放すわけにはいかない』
『これは大切』
『これも要る』
『これも、これも、これも要るよ』
数時間後、いつの間にか左側にのみうず高く積まれ、右側には一冊も置かれていないことに気づく。
『なんだ、これじゃ全然だめじゃないか。やり直し。
あっ!ちょっと待って、もうこんな時間。タイムリミット。続きはまた今度』
そうして、本棚から出された本達はどこへ行くこともなく仲良く元の場所に戻っていく。
片付けるときは大抵急いでいるので、元の場所に入らないものはとりあえずその辺に置く。
そういうわけなのだ。

 私の本棚は少しばかり壮観だ。
全ての本の背表紙が見えるようにきれいに一列に並ぶことはない。
一段を無理やり真ん中で仕切って二段にし、更に奥に一列手前に一列並んでいる。
少し奥行きのある棚には三列並んでいて、一番手前の本達は棚からはみ出して落っこちそうだ。
本棚の上にはカラーボックスが横倒し状態に置かれて本棚として使われている。
更にその上にブックエンドに挟まれた本達が並ぶ。
本達はあまりにもぎゅうぎゅうに詰め込まれているため、一冊だけ引き抜こうとすると
周りの本までくっついて抜けてきそうになる。
本棚に入りきらない本達は本棚ではないスチール棚に横積みされたり
上下に仕切られたダンボール箱に三列に詰め込まれたり。
ソファの上も本に侵略されつつある。

 先日、思い切って本の整理をすることにした。

 本棚から一気に本を取り出して分別に励む。
詳細な内容を思い出したり読み返したりすることのないように、厳しく自分に言って聞かせ、
できるだけ感傷に浸らないように、要・不要を瞬時に判断する。
時々挫折して本を開いて読み返したりしてしまったが、
何とか、愛する本達を断腸の思いで選り分けた。
右側に積まれた本達に未練たらたらのまま、本棚に戻してしまわないないうちに紐で括った。
作業が終わったのはもう夜だったが、本棚に戻してしまわないうちに勢いで古本屋さんへ向かった。
断腸の思いで本達に別れを告げ、断腸の思いで店員さんに本を引き渡した。
(まだ)私の本をどすんと地面に置く店員さんに向かって『乱暴に扱うな!地面に置くな!』
と言いたい気持ちをぐっと堪えて、計算されるのをおとなしく待った。
計算が終わり、名前を呼ばれてカウンターへ行くと何十冊かの論文集の類は一銭にもならないと言われた。
お金になった本の合計数は53冊、断たれた腸の合計額は2,010円だった。
明細はくれなかったのでどの本が幾らになったのか知らないが、
何となく居心地が悪くてお金を受け取って逃げるようにお店を出た。

 本を売るのがこんなに後味の悪いものだとは知らなかった。

 私が売った本は、一体幾らで売られるのだろう。
次はどんな人が買ってくれるのだろう。
大切に扱われるだろうか。
ちゃんと読んでもらえるだろうか。
気になることはできるだけ気にしないように努力する。

 しかし、売った53冊+お金にならなかった本達が消えて、部屋の中が少しはすっきりするかと思いきや、
本棚の中に納まりきらない本達がまだ溢れているとは、これ如何に…。






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