筋力

 竹刀を選定するよう頼まれて、数年ぶりに武道具店に行った。
練習用に安いのが数本欲しいということだったので
安い竹刀を数本握ったり構えたり振ったりした。
剣道から離れて数年が経つが、長年付き合ってきただけあって
恐ろしいことに体はちゃんと覚えていた。
懐かしい感触に懐かしい感覚が一気に蘇り、自然と背筋が伸びる。

 大体選び終えた頃、安い竹刀の隣に高級な竹刀が置いてあることに気がついて
いたずら心で高級な竹刀を握ってみた。
全然違う。
握った感触も、重心も、振りやすさも、何もかもが体に馴染む。
勝手に顔がニヤつき、不覚にも、欲しい、と思ってしまった。
私はもう使わないのに。

 子供の頃から竹刀は安物を使っていた。
学生時代も、高い竹刀はわざと見ないように触らないようにしていた。
基本的に、高い物はいい物だ。
だが、一介の貧乏学生には手が出ない。
欲しくなると困るのだ。

 だらだらと品物の自慢をするお店のおじさんの話を適当に聞き流して、
誘惑に負けないように、さっさと買う物を買って早々にお店を出た。

 帰る道すがら、ふと自分の腕を見ると、いつの間にか筋肉が落ちていることに気づいた。
腕に脂肪がついていることがわかる。
少し前までは、腕に力を入れると筋肉の筋がくっきり見えたのに、
今では力を入れても脂肪をつまめるくらい筋肉が衰えてしまった。
これではいけないと思って筋トレを再開することにした。

 だが、昔とった杵柄が聞いて呆れる。
筋力はすっかりなくなってしまっていた。
まずは、腹筋30回背筋30回腕立て30回を1セットとして
軽く一日1セットだけすることから始めようと思ったのだが、
腹筋20回でバテてしまった。
背筋は難なく30回こなせたものの、
腕立てに至っては10回でへばってしまった。
情けない限りだ。
入院するまでは2セット程度はこなせていたのに。
でも、そういえば最近は電車に乗るだけで疲れることがある。

 やはり、病気はよくない。
自分で気づかないうちに体力が落ちる。
私にとっては屈辱だ。情けない。
少しずつでも元に戻さねば。
ついでに、二度と病気にならないようにしなければ。






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