獣医と人医

 私のお気に入りの漫画に「動物のお医者さん」というものがある。
簡単にいうと、獣医学部で学ぶ二人の青年とハスキー犬を中心に繰り広げられる出来事を
妙なテンポで描いた心温まるお話の集まりである。

 その中で、病院に怯えて攻撃的な態度をとる動物達ばかりの相手を毎日することによって
多少動物不信気味になった二人の青年が以下のような会話を交わす場面がある。
『人間の医者はいいよな』
『患者がいきなりとびついてきたりしないもんな』
『自発的に病院に来るんだしよ』

 だが、人間のお医者さんも半端ではないくらい大変だろうと思う。
私は人間なので、当然人間の病院に行くのだが、
私が行く病院では、初めは待合室で待たされ、診察が近くなると診察室の前に移動させられる。
診察室の前で更に一人二人順番待ちをするのだが、前の人がお年寄りだったりすると
お医者さんと患者さんの声が外までまる聞こえなのである。
こちらが聞きたくないと思っていても、耳にねじ込まれるように入ってくる。
『それじゃぁ、今回は違うお薬を出しておきますからね、それで様子を見ましょうか。
朝と晩の食後に1錠ずつ飲んでね』
『はいはい。それでねぇ先生、前のお薬は効かんかったみたいなんやけど
今日のお薬やったら頭痛いの治りますかねぇ』
『うん。だからね、まだ試してる段階だから、今度はこのお薬を飲んでしばらく様子を見よっか』
『ああ、そうですのん。で、それはいつ飲んだらいいんかいな』
『朝と晩、1日2回食後に飲んでね。お薬の袋の中にも説明の紙が入ってるんだけど
後で一応看護婦さんからもう一度言っておいてもらいましょうか。ね』
『ああ、そう。ちゃんと教えてもらえるんやね。ほな、それでいいわ。聞いときます。はいはい、わかりました』

 そのような人が多ければ多いほど、時間ばかりが過ぎていく。
第三者から見ているとイライラするような押し問答が何人も続いて、
予約をしているにも関わらず40分以上余分に待たされることもよくある。
待たされる私も迷惑だけれど、ちゃんと話を聞いてもらえないお医者さんも大変だなぁ、と
何だか気の毒になってくる。

 動物のお医者さんは動物と意思の疎通ができないが故に大変だろうと思う。
だが、人間のお医者さんは患者と意思の疎通ができるが故に大変なのかもしれない。
『注射をしなくてもいい方法はないんですか?』
『えっ!採血って!え〜、また注射ですか?』
『注射嫌いなんですけど…』
『絶対に注射しないとだめですか?私、すごく嫌なんですけど』
『嫌だなぁ、嫌だなぁ、ああ、注射嫌だなぁ…』
などと駄々をこねるのも、広い世界で恐らく私だけではあるまい。
その度に世のお医者さん達は患者の気持ちを慮って腕を組んで考えるふりだけでもし、
申し訳なさそうに『う〜ん、今の医学では注射以外は無理だなぁ』と言うのだろうか。
本当なら即座に『無理。いい加減諦めなさい』と切り捨ててしまいたいだろうに…。






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