思いがけない贈り物

 大学時代の先輩で、なぜか継続的に私のことをとてつもなくかわいがってくれている人がいる。
大学を卒業してからは出身地に戻られてしまったので会う機会もあまりなくなった。
にも関わらず、ことあるごとに私のことを気にかけてくれるのだ。
私が知る限り、いつも明るくおおらかで豪快で優しくておっちょこちょいでちょっぴり変な
その先輩を私も昔から慕っている。

 ある時、その先輩から宅急便が届いた。
内容のところには、枠からはみ出すくらい元気よく、先輩特有の大きな字で
「おもちゃ」
と書かれていた。
開けてみると、中から出てきたのは「しろたんちびウレタン枕」だった。

 知っている人は知っているだろうが、これは形容し難く気持ちいいのだ。
細長い白いアザラシ(?)の形をしたぬいぐるみ型の枕なのだが、ただものではない。
中に低反発のウレタンとやらが入っていて握り潰すときの感触がたまらなく心地いい。
表面の生地も柔らかくてすべすべしていてえもいわれぬ手触りだ。
そして、ぬいぐるみ型なので顔もあるわけだが、これがまた非常にかわいらしい。

 実は、私は随分前からこの「しろたん」を欲していた。
お店で見かける度に立ち止まって手にとって買おうかどうしようか散々悩み、
『でも、どうしても必要なわけじゃないし贅沢品だし…』と、自分を納得させて
泣く泣くその場を去るという行為を幾度となく繰り返していたのだ。
だから、「しろたん」が宅急便袋から出てきたときには仰天した。

 思いがけない贈り物というのはいつでも嬉しい。
物が何であっても心が温かくなる。
高校生くらいのときに「思いがけない贈り物」についてクラスの子と雑談をしていて
『でも、欲しくない物だったり安っぽい物だったら嬉しくない』
と言って私に頭をはたかれた子がいたが、贈り物というのは心だと私は思う。
心がこもっているから嬉しくなるのだ。
特に、物事に行き詰っているときや落ち込んでいるとき、
何となく寂しさや孤独感に捕らわれているときなどに
思いがけない贈り物が舞い込んでくると、それだけで落ち着く。
ああ、自分のことを覚えてくれている人がいるんだ、気にかけてくれる人がいるんだ
と思って、自然と気分が明るくなる。
普通の状態のときでもこの上なく嬉しいことには変わりないが、
タイミングによっては効果てきめんということかな。
それが、偶然欲しがっていた物なら尚更だ。
ちなみに、私は10円のチロルチョコでも嬉しい人なのだ。

 さて、先輩は私がしろたんに惹かれていることなど微塵も知らなかったわけで、偶然である。
しかし、思い起こせば、以前から肝心なときに他人の心に敏い人だった。
多少鈍感な部分のある人のはずなのに、ここぞというときに敏感に私の気持ちを察してくれて
救われた思いをしたことが学生時代に何度もあった。

 あまり褒めすぎると、何かのチャンスに先輩がここを訪れて文章を読んでしまわれたとき
有頂天になって交通事故でも起こされては困るのでやめておくが、
こういう人は本当に貴重だと思う。
私は人の気持ちを汲むのがとても下手なので余計にそう思うのかもしれない。
だが、今の世の中、他人の心を思いやって行動できる人間が何人いるだろうか。
しかも、日常的に顔を合わせるわけでもない人のことを。
こうせちがらいと、どうしても心の余裕をなくして自分のことで精一杯になってしまう
人の方が多いのではないだろうか。
一朝一夕で身につくことではないが、私も先輩をできるだけ見習おうと思った。

 先輩には昔からお世話になりっ放しだが、また改めて教わったような気がする。
それにしても、こんな頼りない後輩を持った先輩の、何と気の毒なことよ。






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