旅はフェリー

 国内を旅するとき、私は主な交通手段としてフェリーを利用する。
その最大の理由は、安いから、である。
しかし、私がフェリーを好む理由はそれだけではない。

 私が知る限り、フェリーは夜海を渡り、朝目的地に着く。
バスや電車と違い、横になって寝ることができる。毛布もある。
お風呂もある。
退屈になったらフェリーの中を探検するのも楽しい。
デッキに出て海や空や街を見るのも楽しい。

 私はフェリーのデッキから夜の海を見るのが大好きだ。
何時間眺めていても飽きない。
真っ黒な海を進む船体に絶え間なく波が押し寄せる。
その波を船体が押し返し、また新たな波が押し寄せる。
一つ一つが違う波で、音も違う。
波の音に耳を傾けているだけでも楽しい。
海は案外交通量が多い。
遊覧船・漁船・その他私の知らない雰囲気の船。
街の灯りの届かない海は真っ暗じゃなかった。

 私は夜景が大好きだ。
山の上から、ビルの高層階から、目にする夜景は思わず溜息が出るほど美しい。
そして、フェリーから見る街の灯りもまた絶景だ。
デッキの手摺にもたれながら街の方角をただ眺めているだけで灯りが流れる。
動かない夜景を静かに眺めるのも心が和むが
波の音と共に流れる灯りというのもなかなか目を楽しませてくれる。

 しかし、私が何よりも楽しみにしているのは空かもしれない。
陸の光が届かないくらい沖に出てから空を見上げる。
晴れていれば、空一面の星。
昔、北海道へ向かうフェリーでは満天の星に加えて数え切れない程の流れ星が流れた。
上を向いているだけで目の前を星が通り過ぎて行くのだ。
よく、流れ星が流れる間に3回願い事を唱えることができれば願いが叶うと言うが、
そんなことは無理だ。
願い事を一単語にまとめたとしても、流れ星が流れる間に3回も繰り返すことは無理。
それにしても、フェリーから見る星は限りなく近くにあって圧倒される。

 すっかり時を忘れてデッキで過ごし、ふと我に返って船内に戻ると、
潮風に吹きさらされて髪がばさばさになり、櫛が通らなくなっている。
極端に風に弱い私の目は、涙でまるで泣き腫らしたかのようだ。
仕方なく、ゴーゴンのようになった頭を手で押さえ、真っ赤な目を隠しながらこそこそと部屋まで戻るのだ。
その道程が非常に恥ずかしい。
それでも、私はやはりデッキに出る。

 船内に入ると、親とガキが走り回り大声で叫んでいるのがこの上なく耳障りであり目障りだ。
怒鳴りつけて張り倒してから海に投げ込んでしまいたい気持ちをぐっとこらえ、
お風呂に入って心を静める。
心が静まったところで部屋に戻り、毛布に付いたゴミを取り除いて耳栓をして横になる。

 そして、私は夢を見る。






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