自分の背より少し高い位置の草むらにススキを見つけた。
子供の頃、道端に生えていた猫じゃらしをちぎり取って振り回しながら歩いたことを懐かしく思い出した。
ススキで同じことがしたくなったが、この歳になるとさすがに気が引けて断念した。

 よく見るといろいろな植物が生えている。
あいにく、私は植物にはほとんど知識がないので名前はわからない。
柿のようなミカンのような実がついた木があった。
黄色い花がたくさん咲いていた。
そして、草むらからは無数の虫の音が聞こえた。
普段なら車やトラックの排ガスに顔をしかめ、騒音遮断用のウォークマンを聞き、携帯メールを打ったりしながら歩くところだが、
こんなところではもったいなくて到底できない。

 首を上げているのに少々疲れて視線を下に落とすと、
一輪のたんぽぽの横を虹色のトカゲが走り抜けていき、
道端の草の中で頻繁にカサ、コソ、コトンと音がするので何気なく目をやると、
久しくお目にかかったことのないような巨大なバッタが飛び跳ねていた。
しばらく歩くと、またカサ、コソ、コトンと音がするので通り過ぎざまに振り返って見ると、
今度ははバッタではなく蛇だった。
珍しい生き物を見つけた喜びに、回れ右をしてもっとよく見ようと近づいて行くと蛇の方が驚いて逃げてしまった。

 車道には車に轢かれたのであろうカマキリがぺっちゃんこになっており、
更にその先には、これまた車に轢かれたのであろうムカデと思しき物(私は本物のムカデを見たことがない)が
ぺっちゃんこになって伸びていた。
それにしても、カマキリなんて最後に見たのはいつだっただろう。

 10月の太陽はぽかぽかと暖かく、風はそよそよと心地よく、
至る所に糸の関所を張っている8本足のグロテスクな関守に恐る恐る挨拶をしながら
もうあまり誰も着ていない半袖を着て、秋の風をめいっぱい肌で感じながら私は歩いた。

 一生、と言われると少し怯むが、一生のうちの短期間であればこういう所に住むのも案外楽しいかもしれない。
そうすれば、もう少し情緒豊かな人間になれるかもしれない。
そう思いながら、私は歩いた。






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