知らない知り合い

 私には男女を問わず、古今東西稀に見る本当に極めて珍妙な友人が多数いる。
そんな友人のうちの一人がこんな話をしてくれた。(人名は一応仮名にしました)

 ある晩のこと、彼女の下に突然一通の携帯メールが舞い込んだ。
『何してんの?』と。
差出人のアドレスはsachiyo..@....となっている。
しかし、彼女にはそんな名前の知り合いはいないし、アドレスの登録もない。
彼女はこう考えた。
「私のアドレスは間違いメールが入るような単純なアドレスではない。
ということは、きっと私の知り合いがふざけて友達の携帯から送っているに違いない!」
そして、彼女はその場にいるであろう知り合いを意識しつつ
『寝冷えした〜っちゅうか誰ですか?』
とメールを返したというのだ。
(私に言わせれば、そんなことをしそうな知り合いがいること自体が既におかしい…)
すると、『誰でしょう?紹介してもらってん』
と来たので『情報料払ってや〜 さちよ!…っちゅーか勝手に紹介しないの!!』
という感じで一緒に居るであろう彼女の知り合いに対しても愛想をふりまいてみたそうなのだ。
その結果『ちゃうで 男やで!これから仲良くしたいねやんかぁ』
と返ってきたので彼女は突如危険を感じて男のふりをした。
『俺も男やで〜実は!紛らわしいメルアドつけんといて〜。しかし誰に紹介してもらったんや?』
すると、相手の男はがっかりして(かどうかは知らないが)
『なんやぁ ごめんな 俺の女の携帯の中の一括送信アドやねん ともこ とかいう子かな
内緒やけど ほんまごめん じゃ』
と返してきたのだ。
それを読んだ彼女は、その「俺の女(ともこ?)」が「男」にメールを送っていることになってはまずいだろうと気を回し
律儀にも返事を返してしまった。
『なんやよう解らんが…誤解の無いように言っておきますが、私はれっきとした女です。じゃね〜』
その結果、ゲンキンにもまた男から浮かれたメールが舞い込んできて、以来、メル友の関係が続いていると言う。

 要するに、このややこしく入り組んだ「我が友人と男と〔さちよ〕と〔ともこ〕の関係」と今回の事の起こりは、
男と〔さちよ〕は恋人同士であり、〔ともこ〕は〔さちよ〕及び我が友人とそれぞれ別々の繋がりで友人関係にある。
あるとき、〔ともこ〕は〔さちよ〕・我が友・その他に一括送信メールを送ったのだ。
今回、〔さちよ〕に来ていたそのメールをたまたま男が発見して悪戯心から一括送信アドレスごと
『何してんの?』メールを送ってみたということらしい。
という話を、彼女独特のノリで面白おかしく語ってくれた。

 その男については私なりに意見もあるのだが、それよりも何よりも、あまりにも彼女らし過ぎるエピソードに
思わずお腹を抱えて笑ってしまったのだった。
私なら絶対に知らないアドレスからのメールには返事なんか送らない。
普通、そうだろう。
何ておかしな子なんだ、この子は。
しかし、いかにもやりそうじゃないか。
普通なら無視するのに。のに。のに…。
きゃははははははは

 と、大笑いしていると、ふと昔のことを思い出してしまった。

 私が生まれて初めて携帯電話を手に入れて嬉しくて嬉しくて知人に番号を知らせ始めて間もない頃のことだ。
ある晩遅くに電話が鳴った。
私はうきうきしながら電話に出た。誰だろう。
『もしもし』と言うと、いきなり若い男の声が『今何してたの?』と質問を投げかけてきた。
無礼な奴だと思いながら『誰?』と尋ねると『アキラ。今何してたの?』と返ってくる。
う〜ん、アキラアキラアキラアキラ。
確かにアキラという名の友達はいるけれど、少し声が違うような…。
携帯電話だから音質が悪いのかな。
少し不審に思いながらも『そろそろ寝ようと思っていたところ』と携帯に向かって呟くと
『少し話さない?』と聞かれた。
やはりおかしい。
そもそも、私の友達のアキラならば苗字を名乗る。
『少し話さない?』などというようなことも言わない。
もう一度『誰?』と聞くと、やはり『アキラ』と名乗る。
『君は私の知り合いか?私は君のことを知っているの?』と尋ねると
臆すことなく『全然知らない』と返ってきた。
思わず絶句してから気を取り直して『この番号はどこで知ったの?』と聞くと
『適当に番号を押したら繋がった』と言われた。
『何のために?』という問いには『話し相手がほしかったから』と答え、
『いつもこんなことをしているの?』という問いには悪びれる様子もなく『うん。結構、しょっ中』と答え、
『男が出たらどうするの?』という問いには平然と『何も言わずに切る』と答え、
『友達いないの?』という問いには『いっぱいいる』と答える。
『そう。じゃ、友達と喋ればいいじゃん。もう切るね』と言うと、すがるように『待って待って』と言う。
年を聞くと私よりも1つ下らしい。
特に人を食ったような態度、というわけでもないのだが、知らない人間のところにいきなり電話をかけてきて
名前も名乗らずに、あたかも以前からの知り合いであるかのように馴れ馴れしく気さくに話し掛けて
話を引き出そうとする不躾な態度に腹を立て、
私は、そのような行為がいかに本人にとって時間と労力と電話代の無駄であり、
電話を受ける側にとってはいかに迷惑で場合によっては恐怖心を起こさせるか、ということを
全然知らない青年に向かって延々と30分近くもお説教したのである。
その間中ずっと、青年は素直に『うん』『うん』と相槌を打ちながらおとなしく話を聞き、
気が済むまでお説教をした私は『二度とこんなことしないでね』と言って電話を切ったのだった。

 当時、親しかった友人にその話をすると、皆口を揃えてこう言ったものだ。
『そんな電話相手せずに切っちゃえばいいのに』
まったくもって、ご尤もです。

 私のこの話は今回の私の友人の話とは多少異なるものの、
その是非はともかくとして、携帯電話という文明の利器はどうやら架空の知り合いを生み出すには
もってこいの道具のようだ。(笑)






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